生まれたばかりの国に残る者、故郷に帰る者、旅に出る者。
 誰もが次の道を決めていく。
 別れていく。
「約束を、してみようか」
 ふと空を見上げて、シフォンが言った。
 よく晴れた、真っ青な空だった。







約束







 すっと差し出された左手を握り返すと、フッチは嬉しそうに破顔した。
「お元気で」
「君たちの方こそ気をつけて。旅の無事を祈ってるよ。それにブライトのこともね」
 シフォンが微笑み返せば、少しだけ照れたように笑って頷く。
「ありがとうございます」
「帰ってきたら知らせ寄越せよ」
「わかってるって。そっちこそ、ちゃんと昇格してろよ?」
 次いで、横合いから小突いてきたサスケを小突き返して、
「へっ、おまえが正騎士に上がる前に、絶対に中忍なっててやるよ!」
「絶対だな? 真っ先に確認してやるから!」
 まるで計ったようにぴったりと二人、右手の拳を打ち合わせて笑い合った。
 そして。
「ルック」
 呼びかけるフッチの声に、ルックは目線だけを返す。が。
「また会える?」
「……何それ」
 ひどく驚いたように振り返って、大きく目を見張って。それからゆっくりと、ため息と共に吐き出された呟きは、何処か間が抜けていて。
「何となく。だって、ルックと会うのが一番難しい気がしてさ」
 なのにフッチは、至って普通に、本当にさらりと言い放つから、とうとうシフォンも声を上げて笑った。
 目に涙が滲むくらい笑って、ほんの少し困惑したような照れているような、苦り切った顔のルックに蹴飛ばされた。フッチとサスケも、それを見て笑った。
 だから、言ったのだ。
「じゃあ」
 真っ青な空を見上げて、言ったのだ。
「約束を、してみようか」
 三年後に。四人で。




 ──またね、という言葉を口にしたのは、いつ以来だったろう。




「どういう心境の変化だい、前は真っ先に行方をくらましたくせに」
 尖塔の先にある屋上の風は少し強くて、すぐに髪が吹き散らされる。顔に掛かるそれを鬱陶しげに手で払いのけながらルックが、心底呆れたような声で問うてきた。
 小さな屋根の上によじ登っていたシフォンは、からからと笑う。彼のその落ち着きのない様を、わざわざ指摘するようなことはしないけれど。
「別に、三年後まで会わないって意味じゃないよ」
 そのまま屋根の頂を綱渡りでもする気分で、ふらふらと風に煽られながら歩きながら、笑みを含んだ言葉を返すと。
「そんなことを言ってるんじゃないけど?」
 呆れを通り越して辟易とすらしたように、ルックが露骨に眉根を寄せてみせた。
「そうかな」
 狭い足場もお構いなしに、シフォンはくるりと踵を返す。
 自分を見上げてきている親友の顔は、ただ、苦い。
 わかっている。
 約束を交わすということは。
「今回みたいな偶然じゃなくて、会うために会う。そのために、その日が来るまで時間を数える。それだけじゃないか」
 そう言いながら、笑って。
 空を、仰いだ。
 真っ青で、よく晴れた空だった。
「……あいつらは、成長するよ。僕らと違って」
 三年後に再会を約束した、あの子供たちはどんどん大人になっていく。
 いつまでも留まり続ける自分達を追い越して、通り過ぎて。
 いつかは。
「わかってるさ」
 それ以上、言われなくても。
 わかっている。約束を交わすということは。
 だからシフォンは空を仰いだまま、声を上げて笑う。
 真っ白な真昼の太陽が、真っ青な空の中心で、燃えるように輝いていた。
「だから、いいんじゃないか」
 怖いくらい、楽しみだろう?







かえり道