「雪だ…」
 灰色に染まった空を横切った何かが気になって、窓を開いてみれば、ぼんやりとした小さな小さな白が、いくつもいくつも舞っていた。
「雪!?」
 その途端に耳敏い親友が、後ろから悪気はないんだろうがぐっと押してきたために、窓の桟に半ば身体を押しつけられてしまう。重い。それに、
「……痛い」
「あ、ワリぃ」
 あっけらかんと笑って隣に移るから。それ以上文句を並べ立てるのも馬鹿らしく思える。
「でもすげー、雪だ…」
 見てると呆れてしまうぐらいに、空に目を奪われているのが、なんだかおかしかった。
「積もらないよ」
「え、マジ?」
 一転して残念そうになったりとか。
「だってこの雪、重くない」
 ぱっと伸ばした手についた雪は、瞬く間に水滴に変わってしまう。
「この辺りじゃ滅多に積もらないよ、きっと」
 今のだって雪はすでに半ば溶けて降ってくる。空高くはともかく、地面の近くはまだ少し、雪には暖かすぎて。
「そっか、つまんねー」
 一転してむくれたりとか。
「珍しいの?」
「珍しくねぇの?」
「山の中だったからさ…めちゃくちゃ降った」
 ここからでは見ることも叶わない、遠い故郷のこととか。
「いいなー、滅多に積もらねぇ、俺んトコ」
「降りすぎても、結構大変だぜ? もっとずっと寒くなるし」
 外なんて歩くのも大変になったこととか。
「でもな。余裕で寝転がれるぐらいのかまくら、いっぺんつくってみてぇ」
 続かない会話だとか。
「なにそれ」
「笑うなよ、俺んトコじゃそんなもんなんだよ!」
 そんな。
「怒鳴るなよー」
「怒鳴ってねー!」

 思い出にもならないような、たくさんのこと、とか。

「そうだ! いいこと思いついた、おまえが竜洞に帰れたら、冬、俺行く!」
「………………は?」
 こんな。
「そうだよそうだ、俺って頭いい!」
「……ま、いっか」

 思い出になってしまうような、たくさんのこと、とか。

「いつになるか僕は知らないけどね…」
「あ、ひでぇ」






 きっとこれからも、いくつもいくつも、あるんだろう。
 いつかそのうち別れてしまう、その時まで。