THE DOOR INTO SUMMER #1





 ある日、彼女がいなくなった。








銀の雨








 いつものようにまた明日と言って笑って別れた次の日、いつものように待ち合わせの約束をしたりはしていなかったけれど、いつだって彼女はふらりと目の前に現れるし、そうでなくても彼女のお気に入りの場所の何処かで、いつだって会うことが出来た。
 その日も、いつものように彼女に会いに行って、でもいつまで待っても彼女は現れなくて、彼女のお気に入りの場所を思いつく限り探しても彼女はいなかった。
 陽の当たる原っぱにも、エノコロ草の草はらにも、何処にも彼女はいなかった。
 あちこち探し回って、でもどうしても見つからなくて、何日も何日も探し続けて、それでも見つからなくて、もう一人の友達だった彼と二人でどんなに探しても見つからなくて、ようやく、彼女がいなくなったことを理解した。
 この世界から、彼女はいなくなったのだ。
 彼女と初めて会った場所で、この世界から女神様が消えてしまったから彼女も消えてしまったのかもしれないと泣いていたら、彼は首を振って、言った。
 ──絶対に、見つけてくるから。
 涙が止まらなくなるくらい優しい声で、そう言った。



 そう言った彼までいなくなって、そろそろ二年になる。



 その日、突然、世界が動かなくなった。
 約束していた時間より早かったが、彼が来るのを待っていた時、突然、世界の時間が止まって、動かなくなった。
 間もなく、世界が燃えてしまったことを知った。
 その日から、彼とは一度も会えていない。
 壊れかけた世界が終わる日にも、彼はいなかった。
 彼女はあの日から、ずっといない。
 その日から、ひとりになった。



 ある日、彼女が殺されたことを知った。



 そう。彼女が殺されたことを、知っていた。
 だからこの彼女の知らない姿で、この変わり果てた世界で出会った、あれは彼女ではないと知っていた。
 わかっていても、もう彼女はいなくて、彼もいなくなって、ひとりだったから。
 ずっと、たった独りだった、から。



「だから、いいんだ。君がどんな理由であの時、僕を必要だって言ってくれたかなんて」
 ただ戦力として、碑文使いだったからというだけの理由でも。
 けど、と再び決まり悪そうに口ごもってしまった彼は、いなくなった人たちと同じくらい、とても優しい。
「だからハセヲも気にしないで」
 嬉しくて笑い返すと、呆れたようにため息をつかれた。
「……変なヤツ」
「僕は、それでいいんだよ。僕は君と一緒にいたいと思う。君は僕と一緒にいてくれる。だからもう、それだけで本当にいいんだ」
 すると今度は苦笑混じりに、深く、もう一度。
「ったく、しゃあねえな……だったら、これからは思いっきり呼びつけて、こき使ってやるからな。覚悟しとけ」
 早口で言いながら、ついと顔を背けた彼の、銀髪がさらりと揺れて光を弾く。
 偽物の銀色、偽物の光。
 この世界は虚構で出来ている。
 それでも彼なら、こんなにも輝かしく見える。
 そんなことも忘れていたと、彼の隣なら思い出せる。
「うん」
 彼の声の、一つ一つが染み込んでくる、あたたかい感覚。
 乾いた土に、降る雨のように。



 いつかきっと、花は咲く。








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 .hackで書きたくなるのは現実的非現実世界、非現実的現実世界、ヴァーチャルの中のリアル。
 だからこれも、根底は同じです。

 AIDA猫を連れていた時の、AIDA猫しか見ていなかった時のエンデュランスは、何を考えていたのだろうとか。
 ときどき何であんなこと言っちまったんだ勢いだったんだよ何でかわかんねえけどこれは何かの間違いだ誤解だきっとそうだとか頭を抱えながら、何だかんだ言って流されやすいハセヲは結局、インプリンティングのヒヨコみたいに一途でマイペースな押しに負けて情に絆されてしまうんだろうなあとか。
 そんなことを思うくらい、vol.2はエンデュランスが輝いていました。いろんな意味で。

 思わせぶりな捏造やっちゃったネタは、これスケッチだから勘弁してください(笑) 二年は長すぎるとわかっていても、ちょっとやってみたかった衝動。前作メンバーの行方は今後、どれくらい触れられるのでしょう……あと、チャップ・チョップ事件の詳細。

 「銀の雨」はa・chi-a・chi。懐かしい歌が、ぱっと浮かんできました。