彼らの選択について ~ at the end of the world ~



「そうか。君も"女神の子"だったのか」
 闇の奥で、彼は痛みを堪えるように目を伏せた。
「本来ありえないことが起こっている。"女神の子"が同時に二人、存在してしまっている。世界は必ず、この歪みを修正しようとするはずだ」
「修正?」
「世界はもうじき、君たちのどちらか一人を"女神の子"として選ぶだろう。選ばれなかった方は、世界に殺される。それがこの世界を支配しているルール、運命なんだ」
 だから。




Fragment: 天涯の女王



 サイフリスのツタで玉座に縛りつけられたリラの前に、黒衣の女が進み出る。
 夕陽のような朱色の髪。その色にリラは見覚えがあった。まだ小さな子供だった頃に、この城で。
 だから。
「あなたが、叛乱組織のクィーン?」
「はい。初めまして、女王陛下。ルビア・ナーシサスと申します。陛下ならこの名で、おわかりでしょう」
「……ええ」
 先々代のセインガルド国王、ナーシサス王が長女の名だ。この国を追われ、姉妹ともにカルバレイスの灼熱砂漠で命を落としたと言われていた。
「目的は、復讐ですか」
 彼女の父を王位から追い落としたばかりか、死に追いやったのはリラの伯父だ。彼女は生き延びたようだが、ナーシサス王と王妃の遺体は回収され、首を確認されているはずだ。
 リラの言葉に、しかしルビアはくすくすと笑う。
「いいえ? むしろ陛下は、父と母の仇を討ってくださったではありませんか。あの簒奪者は報いを受けたのです。感謝こそすれ、陛下をお恨みする理由など私にはありません」
「では何故、こんな」
「今のこの歪んだ世界を壊すために、剣が必要なのです。鍵となる八本の剣が。我々の手にはまだ半分もなく、所在が明らかでない剣もあります。ですので陛下には、剣を揃えるための道具となっていただきます」
「たとえ剣を揃えたところで、あなたは"扉"に触れることなど出来ませんのよ?」
「問題ありません。"扉"を開くのは私ではなく、この方なのですから」
 そう告げたルビアが、優美に後ろを指し示す。
 促されるままリラが視線を向けたその先、開かれたままの大扉から玉座の間に現れたのは、スタンだった。




Fragment: 王の剣



──何故ですか!!」
 言葉を失ったリオンとルーティを庇うように前に出て、アッシュが叫ぶ。
 金色の剣を抜き放ち、その切っ先をまっすぐこちらへ向けた、スタンへと。
「その剣は、あなたのお母上が殺された時に失われた金陽だ。それがどういう意味か、わからないはずがないでしょう!!」
 あのリコリスの惨劇に、関係があるのだ。
「ええ、わかっています」
 だがスタンは仮面のような表情で、静かに答えた。
「わかっています。あの日、母さんが死ななければならなかった理由も。俺たちの運命も」
 全部わかったから、こうするしかないんです。




Fragment: 父と子



 喉元に突きつけられた切っ先は、微動だにしなかった。
「エミリオ、おまえは守りきれるか? おまえの大切なものを」
 ひたと見据えてくる、その瞳にあるのは悲しみなのか後悔なのか、それとも。
「本当に守ることが出来るのか?」
 言葉で答えを返す代わりに、エミリオは剣を抜いた。
 だって、彼女は泣いていたのだ。
 もう何も失いたくない。ただそれだけだった。
「覚悟を示せ。私を越えてみせろ」
 真実が欲しいならば。
 ヒューゴの持つ、銀色の剣がぎらりと光を弾いた。




Fragment: 母と子



 懐かしい形に姿を変えた真っ白な剣は、しっくりと馴染んだ。
「お母さん」
 そっと目を閉じて、ルーティは柄に手を置く。
 優しい声。あたたかな笑顔。髪を撫でた、そよ風のような感触。
 母のすべてが愛情で彩られていた。
 幸せになれる。
 そう胸を張って断言してくれた母の言葉は、願いであり、祈りであり、約束だ。
 だから。
「スタン」


 必ず、あなたを取り戻す。








夢について ~ at the end of dream ~



 そこはいつもの、闇だった。
「俺、あなたが誰なのか、わかった気がします」
 スタンの目にももう、彼の姿ははっきりと見えていた。目覚めた後も、覚えていることが出来た。
 だからわかってしまった。黒い髪、青い瞳。自分の相棒を兄と慕う女性に、よく似た面差し。
「あなたが、スタン・カイザイクなんですよね」
 自分が名前をもらった人。




 だから。だから……












運命について ~ at the end of the Destiny ~



「どうして俺なんですか。あなたが大切なのは」
「ええ、ディムです。しかしあの子は、自分と君のどちらか一人しか選ばれないなら、君を生かすでしょう。そうするのは罪悪感からかもしれないし、愛情からかもしれない、それを色分けしようとするのはナンセンスですが、答えはわかりきっている」
「あいつがそう望むから……あなたまで、それに従うんですか。そのためにディムロスが排除されても」
「それがあの子の望むことなら。それに君は世界の涯てで、彼から教えられたはずです。どうすればいいのかを。だから」
 黒の眼差しは、混じりけも揺らぎもなく、ひたすらにまっすぐだった。
「君の力が必要なんです」
 だから。
「俺も……これ以上もう何も、運命に奪われたくありません」




 だから、運命を壊して、そしてこの世界を。







World End, and...