さらりと金風が吹く。
ふわりと金糸が舞う。
薄紫の星を撫でるように。
静かなる日の過ぎやすし
芒の茂る、焼け焦げた廃墟。
崩れた瓦礫の上に軽く立てば、小さな星が満ちる小さな花圃(かほ)が広がって。
曇りの取れない濃紅の空は、それでも高く遠く。
「いいの〜?」
紺碧の長い裾を綺麗に翻し、斜陽に光をこぼしながら少女は振り返った。
「なにがだ」
瓦礫の上に立つ少女を見上げもせず、少年はどこか面倒くさそうに言葉を返す。その視線は、花圃に向けられたままで。
「え〜? だって〜、久しぶりなんでしょ〜?」
積み重なった瓦礫の上を、軽快に伝い降りつつ少女は笑う。それからすとんと少年の隣に舞い降りると、ね?と横から顔をのぞき込んだ。
「挨拶はしたさ」
「してたね」
「――だから、なんだ?」
うんざりとしたように目を細め、自分の膝に頬杖をついて少女に目を向けた。その様子に、少女の方がきょとりとする。
「あれ? なんだ、違うの? 絶対そうだと思ったのに」
すっと背筋を伸ばし、花圃の中へ入った少女が憮然とした声でつぶやく。
そして、
「てぇっきり、あの人のこと、好きなんだと思ってたんだけどなぁ」
手を緩く後ろで重ねたまま、肩から振り返った。いささかからかいに似た色を帯びた笑みと共に。
「――なっ!?」
思わず組んでいた頬杖が崩れ、頭ががくりと下がる。がすぐに持ち直すと、
「…おい、なんで、そうなるんだっ。
まぁ、確かに――」
「確かに?」
なんとか顔を上げると、茜色の中で不思議な色合いを帯びた瑠璃色が視界に飛び込み、ぎょっと身を引く。――いつまで経っても、この色には弱い。ずっとずっと子供の時から。
「……どうしたのよ?」
まっすぐに見据えてくる瞳から逃げるように目をそらし、
「いや――…確かに、好き、だったのかもしれないが……」
だんだん紅潮していくのがいやにはっきりと感じられる。
「が?」
容赦ないのは聞き手の促す一音。
「別に、好きでいれればよかっただけだ。一緒になりたいとか――まるでなかった」
愛し愛されたいという願いは、まるでなかった。そこまでたどり着かなかった。
それは言うなら、幼恋。
恋になら、愛にならば当然ついてまわるモノはなく、ただただ子供じみた綺麗なだけのモノ。
「ああ、初恋は実らないって、言うものね」
「…そういうことに、しておこう」
目の前をかすめるように金の風が流れ、気配が少しだけ遠のくとなぜか安堵がもれた。
想いなんて相対的なもので。
あれは幼恋だったんだと理解したのは――いつだったか。
「なんか、実は違うみたいな言い方よね、それ」
「違うかもしれないぞ?」
少女の後ろ姿からむくれた雰囲気が伝わって、今度は逆に少年の声音にからかいが含まれる。
しかし、ふと顔だけ振り返らせた少女は悪戯を思いついた子供のような目で。
「もしかして初恋未満? それで、ただいま初恋真っ最中とかだったりして」
「っ、なんでそう――!!?」
「否定はしないのね」
さらっと続けられた一言に、今度こそ二の句に詰まる。
「そうなんだぁ…。誰なんだろうね」
薄紫の花圃に向かって、金色を風になびかせる少女はまるで語りかけるように。
「さあ、誰なんだろうな」
なげやりにも聞こえる声でそんな言葉をつぶやくと、立ち上がる。
風が吹けば、芒のこすれあう音がして。
見上げた空は、どこまでも深く浅く、その色合いを定めない夕焼け色。その彼方から、夜闇の色がにじみ始めている。
「私が最後に覚えてるのもね、空はこんな色してたよ」
遠い記憶。
そのすべてをとどめることは出来ずに、さらさらとすり抜けていくけれど。
「――帰るか」
「そうだね」
空が紺青に染める。
月が白銀に照らす。
薄紫は、花開き。
…… 紫苑咲き 静かなる日の 過ぎやすし
大丈夫か樹!なにがあった樹!!(爆)って感じですな、あはは(ヤケ)
エミリリ布教計画。ほぼ身内リクとなってますが、それはさておいてしまいまして、本人のまるをもらったのでこの通りアップデス。なにはともあれ茨の道をひた走る〜。マイナーなんてレベルじゃないですよね、エミリリ。だってゲームじゃ顔合わせすらないし。あのアナザーからの偶然の産物、といったトコですか。私はマリアンは絶対に好きになれないので、あれは幼恋にしててください。でも幼恋云々はプレイ中からの持論です、『夢の彼方へ』以前からです。
しかし、おそらく大半の方が一周読んだだけではタネがおわかりいただけないかと。文体自体(二人の名前は最後に出すつもりが出すタイミング逸してしまって結局出せずじまいになったんですが)つらつらと書いて、気がつけば説明文入れにくいったらなくて(^^;なので、こんなトコで解説させていただきマス。ダメですね、物書きとして。
まずは廃墟。ゲームのOPデモですがな、当然♪ 世にいるリオンファンはあのシーンでたいがい転ばれたと耳にしております。もちろんその後の笑顔がトドメではありましょうが。あの焼け落ちた屋敷の『夢の彼方へ』版存在理由は……いつか書きたいリストの一つです。
次は「薄紫の星」。これは「紫苑」の花です。紫苑の花の英名は「ASTER」といって、これの語源がギリシャ語で「星」なんだそうで。そこからの言い換えデス。あ、あと、タイトルの由来にもなってる後記冒頭の俳句ですが、水原秋桜子です。タイトル決まらず悩んでたところに、私の『夢の彼方へ』ではお世話になりまくった花言葉の本の、紫苑の項のコメントにあったので、いただいちゃいました。
賛同者…得られるとは思ってませんですが、もしいらっしゃったら「まあよし。」とでも言ってやってくださると有り難いです(^^;