――――――― Scene I, on the Moonlit Night.


 日が沈んだ頃には、何かがおかしいと、ウィチルもはっきり感じていた。
 それこそ向日性のある花か何かのようにソディアがフレンを見つめ続けている姿を、横でずっと見ていたのだ。どうして彼女がそこまで心酔するようになったのかは知らないし、興味もなかったが、その彼女がずっと床板に視線を落とし続けているのは異常だ。
 またこぼしそうになったため息を飲み込んで、ウィチルは手にしていた杖をきつく握り直した。そうして、ぎりぎりまで寄せられた船の縁に幅広の板を渡してもらうやいなや、フィエルティア号に乗り移る。
「すみません」
 周囲に碇泊している船も照明のほとんどは、さながら夜釣りをする漁船のように海面に向けられているままだ。ウィチルは眼鏡を直して顔を上げると、月明かりの下で顔触れを確かめた。ジュディス、カロル、リタ、レイヴン。エステルは既に休ませたと聞いている。あのラピードという大きな犬に見張られて。
「わざわざこっちに来て話があるだなんて、どうしたの。……ええと」
 はたとジュディスが思案げに目線を彷徨わせた。
「僕の名前でしたら、ウィチルです」
「そう、ウィチル。ごめんなさいね、あなたのこと、ユーリがまともに名前で呼ばないから、つい。それで、ご用は何かしら」
 言葉ほどに悪びれた様子もなく婉然と微笑みながら、彼女は先を促す。
「ちょっと……他の人にこんなこと言えなくて」
 言って、ちらりと後にしてきた船を振り返る。人払いを頼んでおいたから、そこに騎士の姿は見えない。
「ソディアの様子がおかしいんです」
「フレンじゃなくて?」
 不思議そうにカロルが首を傾げた。
「こんなことになってしまって、隊長に余裕がないのは仕方ないからいいんです。今更ですから」
「今更なんだ……」
「ノードポリカであなたたちが行ってしまった後の隊長が、どれだけ鬱陶しかったか。だからそれはまだいいんですけど、何故かソディアまでがずっと上の空なんですよ。変な言い方ですけど、こんな時に二人揃って使い物にならないんじゃ、僕はもうどうしたらいいのか」
 最後の方には泣き言のようになった声で、ウィチルは嘆く。
「確かにアスピオの人間が、あんまり騎士団に口出しなんてしてらんないわね」
 ほとほと呆れたようにリタがため息をついた。
 協力関係にあっても騎士団の外部の人間には違いないのだから、その場しのぎにも限界がある。
「それで私たちのところに助けを求めに来たのね。というか、コレね」
「そうねー、コレがいいわ」
「うん、コレが一番いいんじゃないかな」
 ウィチルの肩に労るようにやんわりと手を置いたジュディスに続いて、リタとカロルも目を向けた。
「な、何よみんなして、そんな熱い視線でおっさん見つめたって、何にも出ないわよ」
 一斉に視線が集まって、大仰なまでにレイヴンが狼狽えながら後ずさる。
「こういう時くらい役に立っとけば?」
「酷いわー、それじゃまるで、おっさん普段は役に立ってないみたいじゃない」
「立ってたっけ?」
 一言でリタがばっさり切り捨てれば、彼は大仰な仕草で、がくりと肩を落としてみせた。
「即答なんて容赦ないんだからもう……」
「でも、あまり詳しい話を私たちがお相手するのも、少し難しいのではなくて。ユーリを挟んだおつきあいしかないんですもの。向こうにもかえって気を遣わせてしまうかもしれないわ。ねえ、隊長さん?」
「ちょっとジュディスちゃーん」
「立場なんて利用できる時に利用だけしときゃいいのよ」
「そんなリタっちまでー。ねえちょっとカロル少年ー」
 女性二人に畳みかけられ、情けない声を上げてレイヴンがカロルに縋るような眼差しを送る。と。
「え、いいんじゃないの」
 無邪気そうな笑顔を返されて、ひどく気まずそうな表情を浮かべた。
「お、俺様にも立場ってもんがね……」
「だから、別にレイヴンに代わりをしろって言ってるんじゃないでしょ。あっちにいるのはレイヴンの部下じゃなくてフレンの部下なんだからさ」
──へ?」
「そうよ。どっちかだけでも使い物になったら収まるんじゃないの」
「前途有望な後輩が大変な時に放っておける、薄情なおじさまではないでしょ?」
 ジュディスがくすくすと笑う。
「んー。おっさんちょっと、からかわれた気がするんですけどー」
「考えすぎよ」
「ええ、考えすぎだわ」
 華やかな笑顔を前に、さすがに憮然とした面持ちでレイヴンがぼさぼさの頭を掻く。そして。
「まあ……この際、しゃあないやね。どうせ言っとかにゃならんこともあるんだし」
「バウルの話するんだね」
「そうよ。それ教えるついでに、ちょいと親友殿をからかってくるわ」
「あら。おじさまが女性を選ばないなんて珍しいこともあるのね」
 意外そうな声で言ったジュディスの表情は、むしろ面白がっているようで。げんなりとした顔にレイヴンは苦笑を滲ませた。
「あのソディアってお嬢ちゃんは、おっさんも正直やりにくいから勘弁してよ。んじゃ後ヨロシク」
 そう言ったレイヴンは軽々と渡し板に飛び乗ると、逃げるように足早に、向こうの船へ乗り移っていった。その後ろ姿はあっという間に見えなくなる。
「どうしてあの人がソディアを苦手にするんでしょうか」
 ふと浮かんだ疑問を、ウィチルはそのまま口にする。
 ユーリとソディアの関係が険悪なのは知っている。しかも事情がどうあれ、ソディアが一方的に敵愾心むき出しで突っかかっているのだから、彼の仲間から苦手意識を持たれてしまうのも当然だろう。
 それでもレイヴンとは今回の旅のさなかに顔を合わせたことも、ほとんどなかったはずだ。帝都攻略前にデイドンで合流したソディアが、ヘラクレスで遭遇したらしい彼のことをフレンに語気荒く報告していたのは横で聞いていたが、その時に何かトラブルでも起こしていたのか。
 しかし。
「さあ、どうしてかしらね……」
 腕を組んで呟くように言いながらジュディスも、月夜で青みがかった目を訝しげに眇めていた。







――――――― Scene II, the Lamp is There.


 引かれた扉の内側から、出てきた顔が驚きに染まる。
「シュヴァーン隊長……」
「だからレイヴンだってば」
 すかさず訂正は入れておいたが、聞いているのかは怪しいところかもしれない。
「結構ダメモトのつもりだったんだけど、寝てましたって感じじゃないねえ」
 ざっとフレンの全身を一瞥して口をついて出たのは、ため息だった。さすがに邪魔になる鎧は外しているが、鎧下は着けたままだ。レイヴンにとっても馴染みある装いだが、それだけに休息に向いた楽な格好とは言い難いことも知っている。しかも。
「こんな夜中に灯りも付けないで何やってんのよ。暗いわよ」
 据え付けのテーブルに置かれたランプは、どう見ても冷え切っている。
「いえ、少し考え事をしていたので」
 慌てて室内に駆け戻ってランプに火を入れながら、フレンが苦笑いを滲ませた。
 ブラスティアによって生み出されたオレンジ色の光が、ぼんやりと室内を照らす。その控えめな光量は闇を払拭するには至らず、かえって陰りの深さを際立たせてしまっている。
「はまりこむと周りが見えなくなっちゃうタイプ?」
「それは……否定しても説得力ありませんね」
「ないわねえ」
 扉を後ろ手に閉めて、レイヴンは立ったまま背をもたせかけた。この位置ならば部屋に誰かが近づけばわかるし、内開きの扉を押さえてもおける。
「それでご用は」
「大したことじゃないのよ、ちょっとお使いに出されただけで」
「お使い、ですか?」
「そーよー。うちはおっさん使いが荒いんだから」
 そこにわかりやすい当惑の色が見て取れるのは、やはりこの青年の中で先に立つのはシュヴァーンの印象だということだろうか。それほど直に顔を合わせた覚えもないのだが。
 レイヴンは小さく息を落としながら船窓に目を向ける。分厚いガラスはランプの光を反射していて、夜の海は見えそうにない。
「そっちの期限は?」
「明日いっぱい。明後日にはザウデの調査団が到着する予定です。現在の部隊はその警護に残し、僕は入れ替わりで帝都に帰投を命じられています」
「やっぱそんなもんね」
「騎士団長を、あまり空けておくわけにはいかないと」
「星喰みなんかも出て来ちゃって、とりあえずでも騎士団立て直してかないとマズいわな。代行殿の正式な就任も時間の問題ってところかしら」
「……ええ、まあ。困ったことに」
 と、いったん言葉を切って不満を吐き捨てるような嘆息をこぼすと、フレンはレイヴンを睨むように見やった。
「今の騎士団は、僕以外の隊長が誰もいなくなってしまった異常事態に陥っていますので」
「やあねえ、そんな怖い目で見ないでよ。おっさんはただのおっさんよ?」
 碧眼に揺れる蒼い炎は、苛立ちにも似た、ただの八つ当たりだ。
 行方不明扱いのキュモールは、どのみち死んでいるが、指揮権濫用と逃亡で既に死罪が確定している。シュヴァーンは公的にはアレクセイから離反し、ユーリたちを庇ってバクティオン神殿の崩落に巻き込まれ死亡したと処理されることになりそうだと、帝都出立前に小耳に挟んだ。そして騎士団長アレクセイは謀反を起こした大罪人だ。
 彼の真上にいた人間は、この数ヶ月で全員消えたことになる。結果的にただ一人残ったこの青年のもとに、騎士団すべてが転がり込むのだ。ユーリの語る昔話を繋ぎあわせれば彼の上昇志向もうかがい知れるが、さすがにこれほどの急展開は想像したこともなかっただろう。
 もう一度ため息を落として、フレンは目を伏せた。
「今は顧問官の方々が取りまとめていてくださっていますが、騎士団長及び親衛隊の造反と帝都占領に続き、今度は空にあんな異常現象です。帝都の方もまだ片づいたわけではないですし、早急に指揮系統を立て直して、やるべきことは山積みですから」
 だから。
「ユーリのこと、後をお願いします。不都合がないように皆さんのことは僕からもよく言っておきますので」
 言って奥歯を噛みしめるように黙り込んだ、この年若い隊長が今や騎士団長代行なのだ。本音では、生死不明となっている親友の無事をその目で確認するまで、かじりついてでも居座りたいくらいなのかもしれなくとも。
 レイヴンは声には出さず笑う。そして。
「そのことなんだけどね。日が暮れてから話し合ってたんだけど、こっちも、あんたと同じくらいで引き上げることになりそうだわ」
「なっ、何でですか!?」
 泡を食ったように、問い返してきた声は微かに裏返っていた。
「慌てなさんな。これ、良い知らせってやつだかんね。──ジュディスちゃんによると、あのとき何かいたかもってバウルが言ってんのよ」
「何か?」
「そ。俺たちでもあんたたち騎士団でもない、別の何者か。バウルにゃ危ないから離れたとこで待っててもらってたんで、何がいたかまでは見えなかったみたいなんだけどね」
 ザウデが機能不全を起こして星喰みの隔絶がゆるんだ影響か、魔核崩落直後のザウデ周辺はバウルの知覚にとってもひどく荒れて感じられたらしい。そのために、負傷して既に退いていたフェローではなかったことしかわからないということだった。
「ザウデの高さじゃ途中で風に流されたとしても落下位置のズレはたかが知れてる。ザウデの下の海は浮上した遺跡のせいで浅瀬になっちゃってる。しかもユーリは宙の戒典まで持ってる。この状況で何の痕跡も見つからない方が、おかしいでしょ」
「それは、──いえ、そう、なのかもしれません」
 フレンがほうと気の抜けたような吐息をこぼす。
「まあ明日も一回りするけどね。この近くにゃいないって確認はしとかないと」
「わかりました。我々もそのつもりで動きます。これでユーリの方が帝都に先に帰っていたら、とんだ笑い話ですね」
「まったくだわ」
「いっそ各地の騎士団に手配の通達でも出してみるかな……」
 そんな悪戯めいたことを平然と呟く様は、十分にしたたかだった。
 口の端を歪めるようにして笑いながらレイヴンは、軽い口調のまま、
「んで、おっさん、ひとつ確認しときたいことがあるんだけど」
 ふと囁くように声を潜めた。
「あのナイフ、誰のもんだったの?」
 その瞬間、フレンの表情がまともに強張った。
「な、にを」
「ザウデの天辺で、ワンコからもらってたでしょ。おっさん弓なんて使ってるから、年の割に遠目は利いちゃうのよね」
 ランプの灯りでも、青ざめた顔色がはっきりと見て取れる。
「それは」
「わかってんでしょ? 本当は」
──ユーリがっ!!」
 遮るような形で発せられたフレンの声がまるで絶叫のように響いて、思わずレイヴンは言葉を切った。フレン自身もその声量に驚いたような顔で口を噤む。
 それから一呼吸の間を置いて。
「ユーリが、帰ってきてから……ユーリの話を聞いてから、そのことは決めます」
 押し殺した声で、ゆっくりと絞り出すようにフレンは言葉を続けた。
「わかってんのね」
 それがどういう意味なのか。
「わかっている、つもりです」
 ならば背負うのだろう。
 その重々しさにレイヴンは憮然とした面持ちで嘆息しながら、すっかり張り詰めていた緊張を、ひらひらと手を振って払いのける。
「ま、ワンコがあんたに任すつもりみたいだから、ただのおっさんは黙って見てるだけにするけどね」
 飲み込んでいく覚悟があるのなら、後は彼の問題だ。下手に横やりを入れて、事態をむやみに引っかき回す趣味はない。むろん若者をねちねちといじめ倒す趣味もない。
「ラピードの信頼は、僕も裏切れないですよ」
 困ったようにフレンが苦笑いをこぼした。
 あの混乱しきった場で騒ぎ立てることをしなかったラピードは賢明だった。仲間に捜索を優先させ、その上でフレンに委ねていったのだ。彼にとっては、フレンの群れの者が起こした不始末なのだから、ボスであるフレンがきちんと片を付けろという程度なのかもしれないが。
 何にせよ事を荒立てることは出来ないのだ。すべて内々に処理しなければならない。
 ──そう、すべてをだ。
「ああ、あともうひとつ」
「何ですか」
「あんたはユーリのしたことを裁くの。それとも許すの」
 フレンの目が驚いたように揺れる。ややあって返された言葉は、苦笑を帯びていた。
「僕に裁く権利なんてありません」
「んじゃ訴える? そしたら法が裁いてくれるんじゃない」
「そうなのかもしれませんね」
「そうかい」
 すんなり返ってきた答えは、苦笑こそ添えてあるが平然としたもので、レイヴンは顎を撫でつけながらにまりと笑った。
 この青年はある意味でおそらく、ユーリよりずっと現実主義者なのだろう。そして潔癖というわけでもないのだろう。単に、まだ青いだけであって。
 実力で身分をひっくり返すことも出来るのが騎士団だが、他都市ならまだしも帝都出身者においての身分とは貴族と平民だけにとどまらない。壁は市民街と下町の間にも存在している。そこをこの若さでのし上がってきたのだから、この親友殿の裏表も大概だ。無二の親友にはほとほと弱い素顔との、落差はいかほどのものか。
「あんたも大変ねえ」
 彼のいささか早すぎた出世には同情するが、そんなことは思うだけにとどめておく。
「だから今は、少しでも人手がほしいんですが」
 ささやかな意趣返しのつもりか、毒づくようにフレンが言った。
「何のことやら、ただのおっさんにはさっぱりだわー」
「ひどい先輩だ」
「若人は苦労しときなさい。おっさんもう年寄りだから、余生は楽しく生きるの」
「まだお若いでしょうに」
「む、男に言われても嬉しくないわね」
 思わず顔をしかめる。どうせならジュディスのような美人からもらいたい言葉だ。
「それは残念です」
「やり返されてもたまんないし、そろそろ退散するわ」
 飄々とした顔で言い返すようになってきた、若者をからかうのもここらが潮時らしい。
「面白い話をありがとさん」
 船に残っているみんなはもう寝てしまっただろうか。来客が帰っていたら、さっさと寝静まっているかもしれない。
「いえ。──こちらこそ、ありがとうございました」
 振り返らないまま背後にひらりと手を振って、レイヴンは扉を閉めた。
 明るすぎる満月が、甲板にくっきりと影を落としていた。
 それでも遠く微かに、フィエルティア号に灯るオレンジ色の光が見える。
「大将不在じゃぐーたら出来なくて、ホント困っちゃうね」
 向こうへ帰る板きれの橋を探しながら、思わず苦笑いがこぼれた。







――――――― Scene III, He looks for the Star.


「……フレン隊長」
 不機嫌さもあらわな子供の声に、上甲板に座り込んでいたフレンは下に目を向けた。
「やあ、ウィチル。今日はずいぶん夜更かしじゃないか」
 笑いかけてみたが、むすっとした顔で睨め上げてくる彼の視線が棘のように突き刺さって、苦笑へと崩れてしまう。
「隊長のせいですからね」
「すまない。心配かけて悪かったよ」
「そうです反省してください」
 両手のひらを合わせて素直に謝罪を口にするフレンに、ウィチルは子供を叱る母親さながらに腰に手を置いて言い放った。それから伺うように、見上げてくる。
「それで、もういいんですか。なんかソディアは一人にしてくれってとりつく島もなかったんで、隊長しか頼りに出来ないんですけど」
「まあ、一応は」
「一応なんですか」
「少し時間をくれないか。僕も、……たぶんソディアも」
 先ほどレイヴンにはああ答えたものの、今はまだ踏ん切りがつけられない。先延ばしにした卑怯さも、おそらくは見抜かれている。
 ウィチルが呆れた様子で、深々とため息をついた。
「仕方ないですね。でも心ここにあらずはもうやめてくださいよ! 周りの迷惑も少しくらい考えてください!」
「気をつける」
 せめて神妙に彼の小言を聞きながら、これではどちらが年上かわかったものではないなと自嘲が滲んだ。
「そのうち本当に騎士団長なんですからね! 今までみたいに誤魔化しきれませんからね!」
「ああ、わかってるよ」
 持たなければならないのは、すべてを決する覚悟だ。今までのすべてを。
 きっとそれは背負う覚悟ですら、もうないのだ。ただずっと誤魔化し続けていただけで。
「ウィチル」
「はい」
「ありがとう。おやすみ」
「おやすみなさい。隊長も夜更かしは程々にしてくださいね」
 そうして船室に降りようとしたウィチルが、不意に振り返った。
「そこから、何か見えますか?」
 言われてフレンは、空を仰いだ。彼が来るまでそうしていたように。
 この位置からではザウデの真っ黒な影が、夜空を横切ってしまっている。そしてなにより。
「今日は満月が明るすぎて、星がよく見えないな」







星の見えない夜







――――――― Scene IV, She was...


 海面に向けて明かりが皓々と照らされている分、船上の闇をいっそう濃く感じる。
 そしていっそう、大きな月を恐ろしいまでに明るく感じた。
 引きずり込まれそうなその輝きを、見上げることすら恐ろしい。
「私の、してしまったことは……っ」
 船の縁に上できつくきつく握りしめたソディアの手は、いつまでも震えが止まらなかった。







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ザウデ、ユーリ捜索中。
月光の狂気。

ユーリがフレンの前だと普段とちょっと違うように、ユーリが関係ないときのフレンもやっぱり違うんだろうなと思います。ユーリ視点のゲーム中ではほとんど見れませんでしたが。
続く。