地に墜ちた盟友の姿を探して、崖下に見つけたのはひとりの人間だった。
 その腕に、エアルの輝きを見てしまった。
 ああ、ならば彼は息絶えたのだ。
 しかし嘆いている暇はない。
「その聖核を寄越しなさい」
 人にしては大柄の部類に入るのであろうが、それでも小さいその人間を見下ろして、告げる。もしこの人間に利用価値を知られていたら、力尽くで奪い返すしかない。だが、なるべく戦場の外で殺戮は避けたかった。
「アパティア、だぁ?」
 片手で大きな太刀を担ぎ、片手で聖核を抱えたその人間は、怪訝な声を上げた。
「何だ、そりゃ」
「そなたが腕に抱いているその石のことだ」
 その返答に、ひそやかに微かな安堵を覚える。この人間は何も知らない。
「それは我が友の亡骸。せめて我らの手で弔ってやりたい」
 口をついて出てきたのは、情に訴えるような言葉だった。
 人は死を畏怖し、喪失に慰みを求める。多くの人と交わって生きるさなかに、その感傷を理解した。
「あれだけ人間を虐殺した魔物が、それを言うか」
 奇妙なほど淡々とした口調で、人間は言った。
「友やら家族やら恋人やら、縋って泣くための死体すらない奴が、今どれだけいると思う」
 いっそ憤りにでも染まっていればわかりやすかった。だがその声からそして眼差しからは、ただ事実を言った以上の何の色も見いだせない。
「そうか。我らはそれほどの殺戮をもたらしてしまったか」
 すべて消し去ってしまえばいい。そう言い捨てた者がいた。その物を破壊するにとどまらず、その技術を、それを造り出してしまった人々もろとも、ことごとく焼き尽くしてくれようと。
 それに異を唱えた者もいた。そんなやり方では遺恨を残すだけで、かえって技術を根絶することが難しくなるだけだと。
 そうして町一つを壊滅させてしまった今、事態は悲惨な泥沼に陥っている。本来の目的が完遂に至ったかすら定かでないまま、徒に死と怨嗟を積み上げていくばかりだ。もう戻ることは出来ない。
 深く嘆息を落とす。
 こんなはずではなかったなどと、口にすることさえもはや罪だろう。
 だから問うた。
「そなたは何故この地にとどまる」
「なに、昔なじみのバカ息子を連れ戻しに来ただけだ。自分も死にかけてる分際で、女の亡骸を捜してうろついてやがるんでな」
 まさかそこで喋る魔物と出くわすとは思いもよらなかったがと人間は不敵に笑うと、聖核を投げて寄越した。
──よいのか」
「良いも悪いもねえだろうが。それに、見逃してくれんだろう?」
 単なる確認でしかないその問い返しに、くつくつと喉の奥で笑う。
「そなたは帝国の騎士ではないのだな」
「騎士団の連中でこの山に残ってるのはもう、例の魔王とやらがいる部隊の奴らだけだろう。生き残りの避難と防衛が最優先のはずだからな」
「……青い眼の、か」
「なんだ、知ってんのか」
「あれは人を守ることを選んだ、我らが同族だ」
 そして同族殺しだ。そう思ったところで、薄い笑みがこぼれた。
「そうだな。エルハイムがいなくなれば、今のこの不毛な戦を打ち切る道もあろう」
 ふと顔を上げる。これ以上を口にしてしまえば、後戻りは出来ない。出来たとしても、もはやあの場所には戻れない。だが、黙って続けることももう、出来そうにない。
「のう。そなた、わらわと手を組んでみぬか」
 山の向こうには紅く輝く、そして荒野の前には青く輝く、金色が見えた。







輝くもの天より墜ち














光は何処へか。

人魔戦争関係で思いついた捏造設定ざっと詰めてみた。
たとえば、人魔戦争の顛末とか。
たとえば、エルシフルはルシフェルのもじりだと信じているので、対になるミカエルでエルハイムとか。黒毛青眼の兄と、金毛紅眼の弟の、狼系エンテレケイアの双子なんてどうですか。