あれは四年前の冬だった。
まるで帝都そのものが喪に服しているかのように、冷たい長雨がやんでからもずっと、空に暗い雲が重く残っていた頃だった。
明けの鐘も鳴る前に、ユーリがひっそりと下町に帰ってきたのは。
長い長い坂を下りてくる彼はどうしてかひどく悄然としていて、いつでも一緒だったフレンの姿もその隣になく、顔の半分を包帯で覆った痛々しい姿の子犬だけを連れていた。子犬はどうしてか拵えの良い煙管を咥えていて、怪我をした子犬の口には重たいらしいそれをこぼすたび、彼は黙って拾ってやっていた。
薄暗い朝靄の中にその姿を見つけたのは、昨日のゴミを詰めた袋を裏に出していた時で、本当に偶然だった。
「ユーリ?」
思わず呼び止めると、振り返った彼は少しだけ驚いてから、憔悴した顔で弱々しく笑った。近づいてみれば顔色も少し青く、慌てて店に引っ張り込んで、火を入れたばかりの暖房の前に彼と子犬を座らせた。それから子犬には温い白湯を、彼には砂糖を入れたホットミルクを出してやる。
カップから立ち上る湯気を眺めていた彼はやがて甘いミルクを一口含むと、ほっとしたように、疲れたように、ほろ苦く微笑んで、そして消え入りそうな声でぽつりと言った。
「騎士団、やめた」
まるで涙を一粒だけこぼすように、ひっそりと。
それから子犬の名前はラピードだと教えてくれたが、どうして騎士団をやめたのか、彼は結局、何も言わなかった。
一つ星は燃え落ちて
誰も、何も聞かなかった。
けれど本当は、誰もが知っていた。
数日前から帝都は、喪に服している。殺された皇族を悼んで。
──殺したのは、騎士団の人間だったという。
四年前、あの人は死んだ。