騒ぎが始まったのは、ある日の朝からだった。
 全員の私室が並ぶ階層から階下へ駆け下りるけたたましい足音が、ここシルバーノアの食堂まで響いてくる。
「なんだぁ?」
 椅子を二本足にして廊下をのぞき見ようとするエルクの隣で、シュウが冷静に今ここにいないメンバーを改める。  この場に仲間の過半数がいないのは、ほん昨夜まで実働についていたための寝坊者と既に朝食を終えた早起き者がいるからだが、十人を軽く超すようになった全員が食事時に一同に揃うというのはあまりないことでもある。班ごとに別れて仕事に出る時は特にだ。
 もともとが十人程度だったのだから、この広い船の一部しか使うことがない。多すぎる船室の中で広すぎる部屋は優先的に、居住部に近くて便利な物置と化していくのだ。――掃除をあまり必要としない。
 そんなこんなで、現在に至っても食堂として満足に使えるのは、元高官専用の食堂くらいで、つまりさほど広くはない。全員が入りきらないわけではないが、わざわざ時間を揃えることはしない。よって、だいたい二つ三つのグループにばらけるのが常だった。
 そして今ここに出てきているのはシュウの他、エルク、リーザ、シャンテ、イーガ、サニアだ。ならば足音の主はそれ以外の誰か、ということになるが、
「……トッシュか?」
 あんなにも騒々しく階段を駆け下りるのは、よっぽどでない限り彼以外の人間と結びついてこない。だが。
「いい加減にしろ――っ!!」
 ごすっと何かに勢いよくぶつかった鈍い音に次いで聞こえた、非常に慌てた怒鳴り声の主は、どうやってもアークにしか聞こえなかった。







Present for You...







 アークはその後逃げるように――実際逃げていたのだろうが――食堂に現れた。走り込んだ勢いで壁に手をついたまま、ざっと食堂の中を見回す。かと思うと、何かを感じたのかやおら食堂内へ飛び込んだ。それに一瞬遅れて食堂前に滑り込んできたのは、トッシュだった。少し赤くなった額をさすっていて、どうやら先ほどの追突音はこの猪だったようだ。
「アーク、ぁんで逃げンだ!」
「追いかけるからだろ!」
「おまえが逃げっからだっ!」
「当たり前だ! 捕まってたまるかっ!」
 じりじりと間合いを計りつつ、二人はにらみ合う。ちょうどアークがエルクのすぐ奥まで来ていたため、それらの怒鳴りあいはすべてエルクの頭越しに。
「じょーだんじゃないぜ……」
 災難である。しかし当人らはそんな心中に気づかず、あいかわらず肩でぜいぜいと息をつきながらわめき続ける。ここに辿り着くまでも走り回っていたのだろう、この広い船内を。
「おまえに今日いなくなられっと、ひっじょーにマズいんだよ!!」
「何なんだそれは!!」
「まさか、これから出かける気か、アーク?」
 ふと、横からイーガが静かに口を挟む。
 他は成り行きを見守っている状態だ。驚きの眼差しで。だいたいアークが感情丸出しで言い争いをするところなど初めて見るだろう。こうしていると年相応の顔で、年の差はほとんどないという事実に常々首をひねっているエルクでも頷けるものだった。
「別に今日でなくても構わないだろう、今日は見合わせてはくれないか」
「今日でないと構う!!」
 珍しくひどく戸惑ったようなイーガの言葉を、アークは即座に一蹴する。
「ぁんでだっ?!! ワケを言ってみやがれってんだっっ!!!」
 そこで再びトッシュが叫ぶと、
「それはっ」
 アークはびくりと盛大に身を強張らせたかと思うと、
「そ――言えるか、んなこと!」
 一瞬で顔を真っ赤にして、裏返った声の限り怒鳴り返す。
「いったいどうしたというのだ、朝っぱらから?」
 そこへ、さすがに挟まれているエルクが気の毒になったのかなだめるようにシュウが割って入った。ぼそりと続けた一言は、気の毒になったのがエルクだけではないというのも示していたが。
「……見せ物になっているぞ、そんなに赤面しているようでは」
 アークも後ろで愉しげに動向を見守っている女性陣の目にようやく気づいたのか、ぐっと二の句に詰まり、なにやら気まずそうに視線を彷徨わせる。
「どうもこうも……俺が今日出かけると言ったら、途端に」
「こっちも今日おまえにいなくなられると、あとが怖ぇんだよっ!」
 すぐさま飛んできたトッシュのこのセリフに、アークは細めた半眼でにらむと、呻くように低い声で言い放った。
「おい……どういうことなのかよくわからないが……つまり、俺をまた売ったな?」
「オレらだって我が身が一番かわいい!!!」
「おいおい……」
 不穏な言葉の出現に、完全に間に立つ位置まで出て、再びシュウが言い合いを止める。と。
「しまった!」
 ある独特の音がシルバーノア全体を響かせ始めた。それを聞いてトッシュとイーガが安堵を見せると同時に、アークは明らかにまずいといったような焦りを浮かべる。
「離陸……」
 ぽつりとつぶやいてから、エルクはなにがそんなにまずいのかと首を傾げた。
 アルディアに寄航していたのを、どうやら出立するようだ。お尋ね者である以上、長居をしていると面倒な状況にもなりかねないので、シルバーノアは基本的に滞空もしくは奥地に停泊していることが多い。
「ま、あきらめてトウヴィルに行こうや」
 食堂の出入り口に最も近い椅子を引いたトッシュが、にやりと笑みを浮かべて言った言葉に、アークはまともに顔色を変える。
「トウヴィル!? ……なおさら諦められるか!」
 刹那。
「えいっ」
 ぐぉぃぃぃ〜〜〜んんんっっとけたたましくも鈍い音が響く。
「……ポコ……?」
 頭をふらふらさせながらテーブルにごんっと盛大に突っ伏したトッシュの後ろに、シンバルを持ったポコを認めてアークは目を瞬かせる。
「離陸はしてるけど、まだアルディア港のすぐそばでとどまってるよ。案の定、油断したね」
 周囲の呆れた視線をまるで意に介さず、ポコはにこりと笑って答えた。
「あー、ほらほら、今のうちだって。イーガも今回は見逃してよね」
 むぅと唸りに近いため息をイーガはこぼしたのを了承ととって、ポコはシンバルの革ひもから両手を抜いた。
「そうそう。ということで、ちょっとあんたかエルクか、どっちかつきあいなさいな。離陸しちゃった以上、降りるにはヒエンがいるんだから」
 奥で傍観者に徹していたはずのシャンテが、いつの間にか笑みを湛えてシュウの腕を取る。と、アークに向けて、ね?とウィンクをよこした。
「え、あ、ああ……」
「シャンテは事情知ってんの?」
 ヒエンを使うと聞いて立ち上がったエルクがついでに訊ねると、
「プロディアスに内緒の用事」
 的を射ない答えに、エルクはリーザと顔を見合わせシュウは怪訝に眉をひそめた。







「っだぁぁぁっっっっっっっ!!!!! 裏切りやがったなっ!!!!!」
 気がつくなり、トッシュが向かいに並んでいる中に自分を気絶させた犯人を見つけ怒鳴り声を張り上げた。
「裏切ったなんて人聞きが悪いなぁ。僕は単に、アークの味方なだけだよ」
 さらりと笑顔でポコが切り返す。
「でさぁ、結局いったい何なワケ? やけに必死になってたじゃない」
 両腕の頬杖に深く顎を沈ませたサニアが、面倒くさそうな声音でそもそもの疑問を投げかけた。
「いや、な……さして大事ということでもないのだが……」
「ある意味大事だよね。当人たちからすればさ」
 イーガとポコが口を揃える横で、トッシュはすっかりふてくされている。
「はぁ?」
 あからさまに眉をひそめて上げるサニアの声に、トウヴィル岸壁に着けたというスピーカーからの声が重なった。
「オレは知らんぞ……てめぇが責任とれよ」
「何しに行ったのかは固ぁく口止めされてるんだよねぇ……」
 そんなことをぽつぽつ言い合いながら、ククルのいる神殿の前で計ったように三人――トッシュ、ポコ、イーガがいったん立ち止まる。
「他のヤツら、は……?」
「しまった、逃げられた……」
「もう遅かろう……」
 はて、と好奇心でついてきたサニアはイーガの視線の先をたどる。――ククル。サニア自身はまだ機会がなくてほとんど言葉を交わしたことがないが、だいたいは聞かされて知っている。
 "ここにいなくてはならない"人だ。
 普段は奥の間にいることが多いが、シルバーノアのエンジン音を聞きつけて、出向いてきたのだろう。
 悠然と腕を組んで、気圧されるほどに鮮やかすぎる満面の笑みを湛えて、彼女はこちらを――いやおそらく三人を――見ていた。
「どういうことか、きっちり説明してもらいましょうか?」
 数分後、雷にも似た皓き光が降り注ぐことになる。







「だいたい、なんでトウヴィル行くって聞いて血相変えんだ?」
 エルクがほとほとワケがわからないといったように怪訝な顔をする。
 トウヴィルの神殿には、あまり会えないククルがいるというのに。
「いや……ちょっと、な……」
 対する、先ほどから落ち着きなくそわそわとしているアークの答えは、いたく曖昧なものばかりだった。
「シャンテは知っているのだろう?」
「向こうに着いてからね」
 よく似た会話はこれで何度目だろうか。
 プロディアス郊外にあるヒエン置き場から、隣町インディゴスに向かう道すがらである。
 アークは気軽に出歩けない身の上だが、大々的に手配が触れ回ってから早半年が経過したため話題性も薄れ、さらに誰もまさかこんな白昼堂々と現れるとは思われていない。変装で目立つ特徴を消してしまえば、いくら整っているといっても取り立ててあくが強い顔立ちをしているわけでもない。そういう点では、特にここ近辺ではエルクやシュウ、シャンテの方が、顔が売れていることもあって何倍も目を引いていた。
「それにしても、トッシュさん何をあんなに……?」
「俺が知るか……」
 小首を傾げるリーザの言葉にげんなりとつぶやくアークは、普段のように着込んでおらずもちろんあの赤いはちまきも外している。人込みに埋もれたらそのまま紛れてしまいそうだが、実際そうなっても、そうはならないだろうということは誰でもわかっていることだ。
「"売った"とか言ってたじゃねぇか」
「あれは――まぁ、一度似たようなことがあったんだ。もし今回もだとすれば、先にこっちを片づけておかないと、どうしても……その、気まずい」
 少し照れたような仏頂面で、アークが歯切れ悪く言葉を返す。なにを知っているのか、その後ろでシャンテはくすくすと忍び笑いをもらして。
「前にもあったんですか?」
「あった。でも……今日は理由が思い当たらないんだよなぁ……」
 重ねられたリーザの問いに、アークは歩きながら首をひねり考え込む。自分が何かを忘れているのか、それともまた何も教えられていないことからなのか。
「いまいち話が見えねぇな……」
「で、インディゴスの何処に行こうと言うんだ?」
 問うたシュウに、シャンテはほっそりとした指をすっと通りに並ぶ一軒に向けた。
「あれ。宝石店」
 いつぞや、ギルドからの仕事で二度ほど強盗団を追っ払ったあの店である。こんなところになんの用なのかとぎょっとするエルク、シュウ、リーザに、シャンテはころころと笑いを立てた。
「宝石店ってのはね、なにもキラキラした石ばかりを扱ってるわけじゃないのよ」
 シャンテに引き連れられる形で店内に入ると、すぐさま店員が気づいてやってきた。潜めた声でシャンテと二言三言かわすと、店員は奥の扉に消える。
「――あ、ねぇ、エルク」
 リーザがふと片隅のショーケースを指差し、エルクの袖を引っ張った。
「なんだ?」
「もしかして、"宝石以外"ってああいうもののことですか?」
 振り返ったアークはケースに並ぶそれらを見るなり決まり悪そうに頬を染めて顔を背け、シャンテはそんな様子にまた笑う。
「オルゴール?」
 だが、ただのオルゴールとは違う。
「アンティークオルゴールか……」
 感嘆まじりにシュウがつぶやいたと同時に奥の扉が開いて、先ほどの店員が厚手の紙箱を両手に持って現れた。
「御客様からお預かりした物はこちらでございますね?」
 そっとふたが開けられると、保護のための布に何かが埋もれていた。それをほどけば、緻密で繊細な装飾の施されている、優美な小箱が現れた。
「ちゃんと直ったのかしら?」
 どこか緊張した面持ちで、シャンテがいったん受け取った紙箱からアークはオルゴールを取り出す。そしてそっとふたを開け。
「……よかった……直ってる」
 少し切なげな曲が無事に一巡すると、心底嬉しそうにオルゴールを見つめ微笑んだ。







「つまり……結局なんだったんだ?」
 大事そうにオルゴールを収めた箱を抱えるアークに、エルクが訊ねる。こっちが気になるらしい彼はヒエンの操縦をシュウに任せてアークの横に張り付いていた。アークはしばし逡巡するように視線を彷徨わせていたが、やがて、
「これは――前に、もらったんだ。……ククルから」
 母から譲ってもらった、とても大切な物だと言っていた。
「ほう」
 先を促すようなその声に、アークはちらりと細めた一瞥くれると、
「あのときも、そういえば今日みたいに無理矢理な形でトウヴィルに行って。で、ククルの誕生日だったからって知って……突然だったし、前からあの神殿はときどき静かすぎるぐらい静かだし、もともと俺にはなんか似合わないなって思ってたから……天使の飾りがついたオルゴール、あげたんだ。そしたら、さ」
 話しながら、視線はオルゴールに落とされて。
 ――私にはアークがくれた、これがあれば十分だから、いいの。
 ――なら、預かってて。それならいいでしょ?
 ――そのときにちゃんとプレゼントするから。
「っ、――ああっ!!」
 突如大声を上げてアークが立ち上がる。箱はしっかり両手に支えられているところはさすがだが。
「どど、どうしたんだよ、急に?」
 思わず気圧されたように一回り外へ逃げ腰になっているエルクが声をかける。と、
「……思い出した。今日が何の日か」







 トウヴィルの岸壁に着けていたシルバーノアに格納すると、アークたちはそのままハッチから外に出た。
「あ、あれポコじゃねぇの?」
「早かったね……、助かったよー」
 ふにゃあと抜けた声と共に、神殿入り口の脇にへたり込んでいたポコがアークらに手を振る。
「なんだか、その様子だと思い出した? 今日は何の日か」
 立ち上がり、上着をぱたぱたとはたきつつうかがうように問いかけた。
「ポコ、わかってて……?」
「当たり前じゃない。でも、ちゃんとククルの機嫌は直してよ。ククルの場合はさ、直後の『天の裁き』よりも後からの方が怖いからね」
 そこかしこが煤けているのはそのためか。
「やっぱり……ククルだったんだな?」
「たまにだから、ククルには勝てないんだよねぇ」
 苦笑まじりのため息を、広間へ歩きながら二人はつきあう。
「奥の間に閉じこもってるから。早く行ってあげたら?」
「あ、ああ……」
 そのままポコはどんとアークを奥の間へ急かすように押しやると、その姿が見えなくなったところでにこりと、イタズラを企む子供のような笑顔を浮かべてエルクたちにこう言った。
「ね、ちょっと手伝ってくれる?」
「いいけど……なぁんか、いまいち全体が見えねぇ」
 不満そうにエルクが目を細めて睨むと、
「少しは聞いてるんだ?」
「アークが大事そうに持っているのはククルからもらったモンってことぐらい」
 アンティークオルゴールがどういうものなのかいまいちぴんとこないが、綺麗な音だとは思った。
「あれねぇ……たぶんだけど、白い家の一件のときに衝撃が加わっちゃったみたいで、とにかく櫛が欠けちゃってたんだ」
 オルゴールの音がおかしいことに気づいたアークが、真っ先に助けを求めたのはポコにだった。しかし欠けてしまっていた櫛は自分たちではどうにもならず、直せる所はないかと、次にシャンテに相談を持ち込んだのである。
「で、現物見せてもらったら、かなり立派なアンティークだったんだもの。驚いちゃった。それで、これはちゃんとした店じゃないとダメだろうなって悩んでたトコに、あんたたちがあの店の仕事受けてきたから。ついでに品揃えも拝見させていただいて、ここなら大丈夫かなと思って、さ」
 これはシャンテである。
「なるほど、今日引き取りだったからアークは頑として譲らなかったわけだな」
 必死になってここへ彼を連れていこうとしたトッシュらの事情はともかくとして。
「結構見物だったわよ、二人が来たとき――特にアーク、すっごくおろおろしてて。なんだか可愛くてほっとけないわよ、普段が普段だから。恥ずかしいから周りには黙っててくれって言われてたけど」
 "弟"――みたいなものだろうか。
 喪ってしまった人の代わりではないけれど。
「へーえ、それは見てみたかったな」
 なぁ、とシュウとリーザに意地の悪い笑みでエルクは言うが、少し呆れたような苦笑を返される。
「それで今日は一体、何の日なんですか?」
「ああ、それはあたしも知らない」
 と、その場にいる全員の視線がポコに集まる。
「そっか、まだ言ってなかったっけ。実はさ」







「アークっ!」
 奥の間に顔をのぞかせた瞬間、怒りで鋭く尖ったククルの声が響きわたる。
「……あ、ごめん」
「どこ行って――たの、よ……?!」
 初めこそ語気荒いものだったが、アークの抱えている箱に怪訝そうにしながら近づいてくる。
「だーかーらー、ごめんって」
 オルゴールを収めた箱をククルに手渡し、アークが苦笑を滲ませる。
「……何やってたっていうのよ」
「しばらくシルバーノア空けてた間に、ちょっと壊れたんだ。それを直してもらってたんだよ」
 少しふくれっ面のまま、ククルは箱の中を改める。出てきたのはひどく見慣れた、でも今は少しばかり懐かしい小箱。
「ごめん。すっかり忘れてた。誕生日」
「……やっぱりね。そんなことだろうと思ってたから、またやってみたのよ」
 くすりと鮮やかに笑って、ククルは小箱を両の手のひらに包む。
 そして。
「誕生日おめでとう、アーク」
 もう一度、差し出した。







「ハッピーバースディ! アーク!!」
 アークとククルの姿が広間に現れた瞬間。いくつもの声と共に、ぱんぱんっといくつものクラッカーが鳴らされた。
「やけに静かだなと思ったら」
 二人顔を見合わせ、仕方ないなぁとでも言いたげな苦笑を浮かべる。ひっそりと息を潜めていたのも、やはり驚かせようと企んでいたためだろう。
「しっかし、自分の誕生日すっぱり忘れるってのもなんかアークらしいよな」
 エルクが言いつつ料理を摘もうとした手は、すかさずサニアにクラッカーの尖った先を突き立てられた。
「ってぇ、ぁにすんだよっ」
「それはあんたの方でしょ。ったく」
 ぐぅと返す言葉に詰まるエルクに、リーザがくすくすと笑いをこぼす。
「ついでにだいぶ過ぎたけどトッシュの誕生日も祝っとく?」
「へっ、今更そんな年じゃねぇよ」
 茶化すようなククルの言葉に憮然とトッシュが返したところへ、
「お、おっさんも三十路過ぎたのか?」
「だからオレはおっさんじゃねぇ! ついでにまだ三十路もいってねぇ!!」
 トッシュはすかさずエルクの頭を捕まえるとヘッドロックを仕掛けた。
「だぁぁっっ! 首! 首しまってる!」
 少し苦しそうな悲鳴を上げてじたばたとエルクがもがいていると、呆れ果てたシュウにこれ見よがしにため息を深々とつかれた。
「ガキか、おまえらは……」
「同レベル……」
 ぽつりとアークがもらした一言は、即座に揃ってシュウに反論している二人の声にかき消されて彼らの耳に届くことはなかった。しかし、隣のククルには聞こえていたらしく彼女は可笑しそうに小さく笑う。
「いつもこうなの?」
「……おおむね」
「人数も倍になって、えらくうるさくなったもんじゃい」
 透き通った色をそそぎ、チョンガラが二人に手渡して。
「まったくだな。でも、こんな誕生日……初めてだよ」
 こんなに人が多くて。こんなに騒がしくて。こんなに――嬉しい。
「これからはこんなの毎年、いくらでもできっだろ」
 いつの間にか抜け出してきたエルクにさらりと返されて、アークは一瞬呆気にとられる。と、
「……ああ、そうだな」
 そう、笑って答えた。







 今まで生きてこれておめでとう
 そして
 これからも生きていけるように
 願いを込めて――














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『これからも生きていけるように願いを込めて――Present for You』


 8月23日。アークの誕生日。これを知ったのは既に二日過ぎた25日でした。以前に書きかけて投げたネタを組み直して、必死で書いたのがこれです。ここしばらく新しい話を書いていなかったので、かなり文章力退化してて悲しいのですが…とにかく頑張ってみました。ぐは。あまり細かく読まないでください、あくまで軽く上辺だけを…しかし、こいつら難しいです。キャラが掴み切れてないこと痛感。しかも変に苦労してしまった、登場人数削減作戦。おかげさまでなんだか配分メチャクチャですね。これでもだいぶマシになったということで初稿なんて見れたもんではなかったです。内容も散漫してます。全然ダメですね樹さんもっと精進しましょう(苦笑)

 さて。このお話はですね〜、アークの年相応書きたいと思って書いてましたようです。元々。元々どんな話だったかなんて言いませんが、トッシュと言い争いさせてみたかったとか、西川アークが頭から抜けなくてアークの描写に思わず「美しい」と入れたい衝動に駆られたとか、これはいったいいつの話だとか、いろいろとありました。はい。
 そしてそして。「また次のときもみんなで」。この締め方、やっていいものかどうか非常に悩んだのですが……私、偶然ですがEDを知ったので……(涙) 「そうなる」理由は知らないですけど(理由はね、自分の目で確かめるんです。だからトーク系シャットアウト中)
 ところで本編中で誕生日を迎えるなら何歳になるなのかとちまちま考えていたのですが、1から2へのブランクが約半年強らしいので、秋から夏までをこの半年にあてるとちょうどみんな一つ年を取れるので、この時にアークには16歳を迎えてもらいました。なのでトッシュはかろうじて三十路前。でも私2キャラの誕生日知らないので、そっちを含めるともしかしたらダメかもしれない…