ポコがその手紙を受け取ったのは、ハルトとミズハとシャンテをミルマーナへ送り出した後、現地のアークス諜報員と合流してアルディア帝国辺境の漁村にしばらく身を潜めていた頃だった。
 グレイシーヌ・スメリア・ミルマーナ三国同盟の調印式が帝国軍と思しき特殊部隊の襲撃を受け、迎撃のさなかトッシュが大怪我を負ったらしい。命に別状はないとはいえ、あのトッシュが帝国軍を相手に負傷するだけでもかなりの驚きだったが、それを伝えたアークスの連絡員は、イーガからの密書も携えていた。
 厳重な封を施されたそれは、ほぼ同じ内容の物が、アークスを介して繋がっている英雄全員に送られているという。
 イーガの几帳面で硬い筆跡で綴られた文面には、襲撃事件でトッシュが遭遇した敵、黒騎士について語られていた。
 そして。
 ──黒騎士のことは、最悪の事態を覚悟してほしい。
 その言葉の意味を理解することが、理解できてしまうことが、とても怖ろしかった。
 この現実を理解していて、理解しているからこそ、まっすぐに黒騎士を斬ると言えてしまう、トッシュのことも。
 わななく唇を押さえ込むように噛みしめながら、ポコは思った。
 十年も前にこの未来を感じ取っていたエルクには、この世界はどんな風に見えていたのだろう。
 この日から、ポコの悪夢は親友の形になった。


 それから間もなく。
 アルディア帝国皇帝クロイツによる宣戦布告は起きてしまった。
 世界が戦争へと雪崩れ込む、音が聞こえた。


 東の水平線が白み始めた夜明け頃、漁船に擬装したアークス所有の高速艇がアルディア南の沖合で停泊する。
 指定されたその座標には既に、大型の船影が黒々と横たわって待ち構えていた。
「ねえ、アークスにこんな大きな船あったっけ?」
 接舷が終わるなり甲板に駆け上がったポコが思わず口をあんぐり開けて指さしてしまうほど、間近で見るとその軍艦は巨大だった。
 ここまで船を操ってきたアークスの一人も驚きを隠せないでいる。
「ないはずです。たぶんこれは」
「こいつは炎の盾の補給艦だよ。後方支援用だが足は速いぜ」
 つと頭上から答える声が振ってきた。と、タラップが設置されるのを待たず、軍艦の甲板から人影一つ飛び降りてくる。ばさりと重たい布の翻る音と、がつんとこちらの船の甲板を叩く硬い音。
 朝靄にけぶる薄闇の中、浮かび上がるようなその白い人影は。
「……エルク?」
「なんで疑問系だよ」
 あまりに平然と、エルクが紫の目を眇めたが。
「だって。……だって君さぁ、何年ぶりだと思ってるの」
「それは、まあ。噂はよく聞いてたから久しぶりって気があんまりしねぇけど」
「……あのさ。そういう下手な言い訳、リーザには絶対しないことをお勧めするよ」
「……おう」
 呆れ果てながらも忠告を口にすれば多少なりと自覚はあったらしく、エルクも神妙な顔になる。
 ああ、エルクだ。ポコはひっそりと安堵する。
 昔の少年らしい甘さが削ぎ落とされてすっかりシャープな青年になったと思ったが、その顔は叱られるのを身構える子供のようでもあって、なんだか懐かしくすらあった。集団生活を始めたばかりのシルバーノアの隅っこで、懇々と諭す保護者に対してよくそんな顔をしていたので。
 だが今回のことは、かつてエルクを引き留める言葉を持たず、見送るしか出来なかったポコがあまりうるさく言えることでもない。
 ため息一つ、ポコは話を本題に切り替える。
「でも本当にどうしてエルクが?」
 エルクの言ったとおりポコの側も噂だけならよく聞いていたが、頑なに顔を合わせないように避けられている気がしていた。一度、訳あってポコなりに本気でエルクの消息を追ったこともあるのだ。空振りに終わったけれども。
「それくらい緊急事態なんですよ恐れ多くも皇帝府の本丸を襲撃した爆弾テロリスト殿」
「あーはいはい。こないだの帝国の宣戦布告だね」
 ポコが帝国辺境で息を潜めていた理由も先刻ご承知らしい。
 かの爆弾騒ぎから帝国軍の執拗な追跡のおかげで国外脱出もままならず、帝都を離れてもしばらく潜伏しているしかなかった。開戦のどさくさで今回ようやく海上ならば監視網をかいくぐれたのだ。
 まさか迎えの船が、アークスではなく炎の盾から寄越されるとは思ってもみなかったが。
「ああ、それとアークス本部が落とされたって連絡は届いてるか?」
「は? ええーっ!? ちょっと、ヴィルマー博士たちは無事なの!?」
「やっぱりか。博士は本部にいた奴らを逃がすんで一度捕まっちまったが、そのあと無事逃げおおせたらしい。リアたちも一緒だ。ただ、まだ連絡が取れてねぇんだよな。今どこにいるんだか」
 宣戦布告の前に本部の音信が途絶えたのは、やはり帝国のせいだったらしい。
 しかしということは、今のアークスは決定権者不在ということで。
「ってまさか、僕にアークスの指揮を執れってこと?」
「まさかって何だよ。別にこっちに丸投げしてくれりゃいいぜ。いざって時は炎の盾に合流しろって、各支部の上の奴らには内々に通ってんだろ。けどアークス側にその命令を出せる責任者がいなくて末端が混乱してるんだよ」
「そっか。……そうだよね」
 世界の滅亡を回避した英雄の一人。アークス設立者の片割れ。アークスのリーダーはヴィルマーに任せたが、組織の旗揚げから軌道に乗るまでポコも深く携わってきた。ヴィルマー不在の今、リーダー代理を求められる程度には幹部だ。
 それが役割。
「うん、わかった。僕の名前で全支部に合流の通達を出すよ。この船の通信機器を借して、どうせアークスとのチャンネルは用意してあるんでしょ」
「当然。みんなお待ちかねだ、頼むぜ」
 ようやく設置されたタラップに、不敵な笑みを浮かべたエルクが颯爽と身を翻す。
 その鮮やかさが、残像のように焼きつく。
 敵を灼きつくさんと躍りかかる炎の如き鮮烈さを、そうだ、その背中を、ポコはいつも見つめていた。


 イーガの手紙を受け取ったあの日から、ポコの悪夢は親友の形をしている。
 世界を救って死んだ彼が、世界の敵に仕立て上げられてしまう、酷い悪夢だった。
 そのおぞましい亡霊を殺すのはいつも、トッシュの刀かエルクの槍で。
 夢の中でポコはいつも、それを見ていた。
 見ているだけだった。
 ──だからきっと、間違えてしまった。


 スメリア北部の帝国軍基地から助け出した人たちをアークスの救護船に託した後、グレンに戻ったポコはまっすぐにエルクの部屋へ向かった。
 まずは帰還の報告。そして。
「ごめん。僕が甘かったせいで犠牲が出てしまった」
 デスクの上にそっと、楕円を半分に割った小さな金属板を差し出した。アークスで用いられている認識票だ。
 この認識票の持ち主は、ポコの目の前で帝国軍に撃ち殺された。見せしめに。
「いや、今回のことは最初に俺がポコに甘えちまったんだ。自分が動けないからって他人を唆してどうするってどやされた」
 首を横に振ったエルクの口の端に、ひっそりと苦笑のような陰った笑みが滲んだ。
「安請け合いしたのも、状況を甘く見てたのも僕の責任だ」
「そういう気持ちはわかるけどな。俺だって、俺の采配で何人も殺してきた。だからまあ、サニアに言わせりゃ俺たちどっちも同じくらい悪い。俺は、責任ある立場なんだからもっと考えて物を言え。ポコは、」
「一人でやれるなんて思いあがるな、ってところかな」
 気まずげに言いさしたエルクの言葉の先を、ポコは引き取る。
「なんだ、もう叱られてきたのか?」
「サニアにはまだだけど、敵に説教されたからね。一人で来るからこんなことになるんだって」
「なんだそりゃ。いい人か」
「うん、帝国には金で雇われた傭兵だったみたいだけど、結構いい人たちだったよ。この認識票も取ってきてくれたし」
 運び出された彼の遺体はすぐに焼却されてしまったらしい。それを伝えに来た傭兵の男は、運がなかったなとうそぶきながら、この認識票をポコにこっそり寄越してきた。あの横柄な軍人が許可したとは思えないので、隙を見て折り取ってくれたのかもしれない。
「これを持ち帰れただけでも運が良かったんだ」
「……なあ、ポコ。そいつなんだが」
「ああうん、この後アークスの事務局に照会してもらってくるよ」
 認識票の半片に刻印された名前とアークス内のID、それだけわかればアークスの名簿で身元をすぐさま確認することができる。彼の殉職の知らせと遺品を受け取るべき遺族が存命かどうかも含めて。
「ご家族がいたらこれを届けて彼の最期を伝えないとね。誰もいなかったら僕が弔うけど」
 それがあの場にいたポコの果たすべき責任だ。
「わかった。俺が口出すことじゃないな。やっぱりポコはしっかりしてるよ」
「こんな大失態やらかしたときに言われても、耳が痛いんだけど?」
「だって最近、なんか焦ってるみたいだったからさ」
 軽く笑ったエルクに、つられたようにポコも笑った。そういえば出立前にも「らしくない」と言われたことを思い出す。
「そうだね。うん、焦ってたんだ。自分に出来る範囲も見失って突っ走るくらい焦ってた」
「張り切りすぎんなよ。そりゃ戦争になっちまったけどさ」
「それもあるけど、一番は黒騎士かな」
 口にするだけで苦い。
 黒い黒い夢。
「ああ……、聞いてる。トッシュが戦ったんだってな」
 言ったエルクの苦笑いは強張ったようにどこかぎこちなかった。
「自分で思ってたより全然立ち直れてなかったみたいだ。エルクには今さらかもしれないけど」
「俺だって驚いたよ。……あのおっさんも本気だったな」
「トッシュだからね」
「ん。にしても驚いた。結構普通に言うのな」
「エルクがそれを言うの」
 思わず苦笑をこぼしたポコの言葉に、訝しげにエルクが目を眇めた。
「俺は、ただ」
「世界が軋む音、今は僕にも聞こえてるよ。けど誰より早くそれに気づいたのも、戦うと決めたのも、君だったじゃないか」
 だからきっと。
 その時が来てしまったら、エルクは槍の切っ先をまっすぐ彼の心臓に突き立てるだろう。トッシュが斬ると決めたように、エルクも戦い続けることをとっくに選んでいる。
 果たしてエルクはひどく曖昧な、笑みのようなもので口の端を歪ませた。
「俺に出来るのは戦うことだけだからな。敵がもし本当にあいつだとしても、それは変わらねぇよ。俺は世界を守る。だってそうだろ、」
 ──でなきゃ、あいつらは、いったい何のために死んだんだ。
 その笑い方はまるで、泣き出しそうにも見えた。


 いっそ凶悪なまでの笑みすら浮かべて、トッシュもエルクもその火の性そのままに、燎原の火のように最前線を駆け抜ける。そんな彼らから一歩下がって戦場全体を俯瞰しながら采配を振るアークに付き従って、後方支援を務めるのがポコの定位置だった。
 そう、いつだって彼らの背中を見てきた。
 十年前も。
 あの最後の時もそうだった。
 十年経った今も、変わらない。
 イーガの手紙を受け取ったあの日から、ポコの悪夢は親友の形をしている。
 世界を救って死んだ彼が、世界の敵に仕立て上げられてしまう、酷い悪夢だった。
 そのおぞましい亡霊を殺すのはいつも、トッシュの刀かエルクの槍で。
 夢の中でポコはいつも、それを見ていた。
 見ているだけだった。
 だからきっと、間違えてしまった。
 黒い夢に心臓をつかまれたとき、ポコは立ち竦んでしまった。
 ──その弱さを、嫌悪してしまった。


 グレン上層にあるドーム型の展望室の中央、愛用のハープを膝上に抱えてポコはひとり腰を下ろした。
 そうして一音、指で金属の弦を弾く。
 耳を澄まして、少し違うなと思って弦を緩める。
 もう一音。今度は弦の張りを強める。
 これを二十六回繰り返して、一つ一つ音の狂いを正していく。
 ここはコンサートホールではないけれど、大勢の観客はいないけれど、演奏家として楽器の調律を疎かには出来ない。
「これでよし」
 調律が終わったハープを抱え直すと、ポコはそろそろと息を詰め、目を伏せる。
 祈るように。
 指先が流れるように、弦を撫ぜる。
 どこかもの悲しく、静かに、透き通った音色を奏でる。
 長い曲ではない。けれど短くもない。
 復興のさなか、ふと立ち止まって振り返って、喪ったものに涙するのにちょうどいい時間。
 大崩壊の後、ポコは世界各地を旅しながら生き延びた街を巡りながら演奏してきたが、明るく楽しく前向きな曲と同じくらい、喪った人を悼む歌を請われた。
 あの大崩壊を生き残った人々がこれからも生き続けていくにはそのどちらの感情も必要で、音楽はそのどちらの想いにも寄り添うことができる。
 悲しみを塞いではいけない。けれど悲しみに沈みすぎてもいけない。
 それは聴衆だけでなく奏者にとっても同じだった。
 ポコはそうして音楽と生きてきた。
 だから。
「なんじゃ、こんなところにおったか」
 つと大柄な人影がポコの上に落ちてきた。
「あれ。こっち来てるなんて珍しいね。何かあったの」
 チョンガラ。一瞥だけくれてポコは弦を爪弾く指は止めない。
「いやなに、おまえさんが単独でパレンシアの人質救出に出向いたと聞いてのう」
 淀みなく流れていたメロディに、乱れたノイズが跳ねる。
「……もしかしてチョンガラ、知ってたの?」
「む? ああ、アークの御母堂のことか」
 あまりに平然と言い返すものだから。
 今度こそ手を止めてハープを横に置いたポコは、思いっきり渋面を作って振り返った。
「ほんっとにもう、人が悪いなぁ!」
「待て待て待て! 黙っとったのはトッシュやチョピンも同じじゃからな!? 儂は万が一の時に手を回すよう頼まれとっただけじゃからな!?」
「トッシュが?」
「あれがスメリアを治めとったんじゃから、膝元におるんを十年も気づかんはずがないわい。そもそも皆に知らせなんだのも、ポルタ殿に黙っててほしいと頼まれとったからでな」
「そう、だったの?」
 チョンガラがたくわえた髭を撫ぜる。言葉を探す間を取り繕うように。
「まあなんだ……重荷になりたくないと言われてのう。あれはまだ一年経っとらんかったからな、騒がしくしても申し訳ないし、儂らも慎重にならざるを得んかった。その後エルクもおらんようになって、なかなか改めて言い出すタイミングがなくてのう」
 思いあまったトッシュが何か困らせてしまったのかもしれない。そんな念がちらりと脳裏をよぎったが、今回の危機的状況で派手に泣き言をこぼしてしまったポコには笑えそうにない。
「そういうわけでな……どうじゃった。おまえさんも少しは話をしたんじゃろ」
「うん。すごく励まされちゃった。迷惑も掛けちゃったけど、会えて良かったと思う。なんていうか、僕の十年間も間違いじゃなかったって思えるようになったよ」
 あれは目の覚めるような思いだった。本当に。
「なーに言っとるんじゃ、アークスの立役者の一人の分際で」
 憮然とした半眼のチョンガラに軽く小突かれて、ポコは苦笑いをこぼす。
「怖くなったんだよ。英雄だなんだって言っても僕は非力だ。戦う力は、そりゃ普通の人よりはある方だと思うけど、守りきれるほど強くない。今回だって僕の不手際で犠牲を出してしまったし。僕らの始めたアークスだって本当に大きな組織になったけれど、支援が行き届かなかったことも、諦めてしまったことも、たくさんあった」
 大崩壊で一度滅びかけたこの世界で、死がありふれてしまったこの世界で、こぼれ落ちたものを切り捨てることもありふれていた。
 各地を旅していて、誰もいなくなった廃墟を数え切れないほど見た。
 盗賊に蹂躙され、死体だけが転がる村を見たこともあった。怪我で足を失って働けなくなって自殺した人を見たこともあった。昔のように薬があれば治る病気で、呆気なく命を落とす子供を看取ったこともあった。物盗りになった孤児が木に吊されているのを見たこともあった。塵のように打ち捨てられた死体が埋められている場面なら幾度となく見た。
「大崩壊から十年も経っても復興はいびつで、救われないものは多すぎて、世界に不協和音は鳴り止まない。とうとう戦争まで始まってしまった。それなのに、その引き金を引いた黒騎士の正体がアークだって言うから、僕たちは、今のこの世界は何か、間違ってしまったんじゃって、──違う、僕が、本当に怖いのは」
 俯く。両手で顔を覆う。
 血を吐くように絞り出す。
「夢を見るんだ。酷い夢だよ。トッシュやエルクがアークを殺す夢」
 この言葉に、さすがにチョンガラもぎょっと目を剥いた。
 イーガの手紙を受け取ったあの日から、ポコの悪夢は親友の形をしている。
 世界を救って死んだ彼が、世界の敵に仕立て上げられてしまう、酷い悪夢だった。
 そのおぞましい亡霊を殺すのはいつも、トッシュの刀かエルクの槍で。
 夢の中でポコはいつも、それを見ていた。
 心臓は冷え切っていたのに、流れ出た黒い血は生ぬるかった。
 そんな感触ばかり指先にこびりついて、忘れられなかった。
「夢の中の僕が、どんな目でトッシュやエルクのことを見ていたのか、わからないんだ」
 だからポコは立ち竦んでしまった。
 わからなくなってしまった。
 今の自分は果たして正しいことを成せているだろうか、と。
 そしてその弱さを嫌悪した。
「だから僕も、みんなのように、もっとちゃんと強くならなきゃって焦ってた。……もっときちんと英雄らしく出来たら、僕にも正しいことが、覚悟が決められるはずだって思ってたんだ」
 莫迦だったよね。薄暗く自嘲を滲ませたポコに、チョンガラが渋い顔になった。
「……まだ、本物と決まっとらんぞい」
「トッシュが見間違えるくらいだったら本物も偽物もないよね」
「むう……」
 今度こそチョンガラも押し黙る。
 怖いのはみんな同じだ。
 だから十年前は誤魔化してしまった、エルクひとりに押しつけてしまった。
 だから今、ポコは笑った。
「大丈夫だよ。ポルタさんのおかげで僕も目が覚めた。どんなことになってしまっても、僕が僕の弱さでアークとククルのことを否定していいはずがなかった。それだけは絶対に守らなきゃいけないんだ。だってこの世界は、二人が命懸けで救った世界なんだから」
 笑いながら、泣いた。
 誰であろうと、あの二人の誇りを汚させない。
 それがポコに出来る覚悟だ。
「ああ、そうだのう……」
 ポコの丸まった背中をさすりながら、チョンガラがほうと大きく息をついた。ひどく疲れたように。
「どうして、こんなことになってしまったんじゃろうなぁ……」
「うん……」
 生ぬるい涙が止まらなかった。
 これを口にするのは、とてもとても怖くて。
「もし黒騎士を殺すしか、止める方法がなかったとしたら。アークが世界のためにもう一度死なきゃいけないなんて、本当に最悪だよね」
 とてもとても、つらく苦しくて。
 それでも認めなければ、悪夢のような現実に立ち向かうことも出来ない。



re: black nightmare





back / diary / web拍手 / マシュマロ

火属性はククルさんと同じ発想すると思ってます。
結局ククルは鈍らせてしまったけど、かつてミリルを殺せなかったエルクも大人になった今なら約束/使命のために出来てしまう気がするし、トッシュはモンジ相手に既に出来ているし2章で対峙したときも相打ち覚悟で殺す気だったし。
魂を救うために殺す正しさは、けれどポコにはちょっと難しいだろうなと。そもそもアーク相手に戦える力がない組は当然思考のアプローチも違ってくるだろうなと。

プレイヤーには黒騎士の中の人も乗っ取られた過程もキャラクエで完全に露見してるけど、黒騎士=アークだけだと「かつて世界を滅びから救った勇者が、今のこの世界は駄目だと判じて魔王と化す」シチュに誤解を誘導できなくもなさそうなところが割と醍醐味かも。自称根源の神が直接ククル相手に下手な芝居を打ったアレはお粗末すぎて失笑だったけど。
復活ノルは今のところこのパターンに近いかな精霊の書き換えって何だろうな。

あとチョンガラが言ってるトッシュとポルタさんの話はそのうち書けそうなら書くかも。一応何があったかは大まかに考えてるので。