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ひとつ。ひとつ。 ひとよにひとつ。 そんなことを始めたのは、いつだったろう。 そのときの自分を、もう覚えていないけれど。 今も覚えているのは、この色だけ、だけれど。 |
それはまるで、魔法のようだった。 息をひたりと潜めたまま、固唾を飲んでじっと手元を見つめる子供たちの姿に、カスミは口の端に小さく笑みをにじませると。手にしたそれをすっと夕風の上にすべらせる。 「わあっ」 子供たちの視線は、頭上を過ぎる白い影につられるまま、ぐるうりと一巡りして。そして、一転して皆は歓声を上げながら追いかけ走りだした。 「――紙の羽」 ゆらりと重さを感じさせない仕草で、カスミが振り返る。 微かにこぼされたつぶやきの、主へと。 「懐かしいね」 すうっと子供たちの輪の中に落ちてゆく白い翼を、シフォンはうっすらと目を細めて見つめていた。 「泣いていたんです。どこにもいなくなってしまった、と」 しっとり細くささやかれた声が、夕焼けに散った。 はらはらと。 |
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はらはらと。 落ちる白い羽を見つめながら。子供たちを見つめながら。 吹く風に、ひやりとした。 それはおそらく、冬だからというだけではなくて。 「僕も思い上がってた、んだろうな」 どこか苦しげに眉根を寄せ、シフォンがつぶやく。 「莫迦だったかもしれない」 そうだ、莫迦げている。まさか忘れていたのだろうか。ティント市が陥落したあの時、市民からもティンランからも、死者は多数出た。リドリー将軍だけではない。シフォンのみならずセファルさえ、名前も顔も、知らないような人々が。 たとえ、神ならぬ人の身で出来ることなど、小さくても。 「忘れないことなら、出来ます」 きっと。ささめくように、けれど清かに、カスミが声を響かせた。 「すべてを覚え続けることは、苦痛じゃないのか」 すべてを背負う生き方を、選ぼうと思ったことが、ないわけではない。 「それでも人は忘れます」 忘れない想いだけを、覚えているだけで。 「きっと人とは、そうやって悲しみと生きていくのでしょう」 真っ黒なカスミの瞳が、少し赤みのあるシフォンの黒を、まっすぐ見据える。 「……そうだね、そうだった」 うっすらと微笑んでみる。 いつかのように。あの日のように。 やはり、涙は流れない。 |
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みんな、幸せに。 |
言葉が全然足りてないなぁと涙しながら思いつつ、お久しぶりです幻水小説。シフとカスミを主軸に(出来ればこれでもシフ×カスミなんだと私以外にもわかっていただけるように<それは無理)、いつもの面々もちらほら顔出させてみたり。 ずっと思いついてながら書けなくて頭の中を行ったり来たりのテーマだったんですが。やっぱりまだまだ消化不良ですね、私程度の人間では。精進せねば。 |