■ジルグ生存ルートのざっくりした概要
  1. 大前提。ジルグ無双直後にボルキュス率いる追撃部隊の到着が間に合わなかったifルートです。
  2. バルド(元)将軍らがこちらに向かっていることをジルグが明かし、ナルヴィは敵追跡に捕まる前に今いる三人だけでの脱出を決断。
  3. 下山中、敵と遭遇して戦闘に。そのさなかライガットを庇ってジルグが右脛骨複合骨折の重傷を負う。すんでのところでバルドの救援が間に合い、敵を退けて山から脱出。
  4. 王都帰還。しかし道中では充分な治療が行えなかったためジルグの右足は壊死を起こし始めており、やむなく足首から下を切断。
  5. 一時停戦成立。捕虜交換でナイルとロギンも無事生還。
  6. 停戦前半。ジルグは移動と手術の負担からしばらく入院生活。その頃ライガットは現地に残った偵察隊が確保したルートで崖下に落ちたデルフィング回収。
  7. 停戦後半。ライガットがデルフィングと戻ってきた頃にはジルグの体調も回復し、早々に義足を装着して本格的なリハビリ開始。デルフィングと新型(仮)で戦闘訓練も開始。今ここ。
こんなifパラレルでもオッケーという方だけ先へお進みください。







destination unknown

1.楔を打ち込んだ



 突きが来る、と思った瞬間ぱりんと最後のボールが砕ける音がして、同時にデルフィングの稼働限界を示す時間がぴったり残り10分を刻んだ。
「ま、た、かっ……!」
 操縦桿をきつく握りしめ、目の前の模擬刀を構えた赤い機体を睨みつけ、ライガットは歯噛みする。
 が、すぐにどっと脱力した。訓練時間が終了したのだから、いつまでもここにいても仕方がない。
 この訓練はデルフィングの稼働時間が残り10分を切った段階でいったん終了することになっている。今は訓練以外にもデルフィングで行わなければならない作業があるのだ。うっかり丸一日動けなくなってはそちらに差し障ると、シギュンからきつく言い含められている。
 王都の南にあるゴゥレム用の訓練場。デルフィングとあの真っ赤な新型ゴゥレムとで行う戦闘訓練は、ベクトリア峠の谷底から回収に成功したデルフィングが可能な限りの修繕を施されてからここ数日、日課になっている。
 深い崖を転落したデルフィングの損傷は酷かった。後付けの装備以外は今の技術では修復しようがなく、機体性能は大幅に低下した。それでもなお現代のゴゥレムとは比べものにならない性能の高さを有しているが、もうその機体性能にばかり甘えていられないことはライガットも先の戦いで痛感している。
 これ以上デルフィングを損なうわけにはいかないので訓練では木製の模造刀を用い、転倒厳禁かつ寸止め厳守のルールだが、その代わりに模擬戦用のペイント弾を転用したダメージマーカーを双方の機体の随所に設置している。が、専ら割れるのはデルフィングのマーカーであった。
 対戦相手である新型は日々調整が加えられている未完成であり、運動性能の試験中らしく今はまだ仮装甲を付けただけの簡素な状態だ。だが調整半ばの現段階でも、ファブニルでは到底不可能な、曲芸じみた格闘も可能とするだけの運動能力を有している。
 さらにそれを最大限活用できる人間が乗っていれば、純粋に技術のみで向かい合っている以上、経験の浅いライガットでは簡単にあしらわれても仕方がない。なんせ相手は不世出の天才だ。その強さが本物であることを何度も目の当たりにしてきた。そして救われてきた。
 だからそこは落ち込むところじゃない。全然。一つ息を吐いたところでライガットは、新型の背中のハッチからジルグが慎重に地面へ降りているのに気づいて、急いでデルフィングのハッチを開放した。
「おい、落ちんなよ!」
 本人は憎たらしいほど余裕綽々の平然とした顔だが、まだおぼつかない様子が見て取れる右足の運びに、見ているこちらが冷や冷やさせられる。
 ジルグが手術で右足首から下を切断してまだ日が浅い。普通なら安静にしている時期だ。普通ではないから、まだやわらかさの残る切断面を特殊な包帯で固めて義足を使い始めてすぐ、平らかな地面程度ならば平然と歩き回れているのだろうが。ジルグをして気が狂ってるとしか思えないと言わしめたあのアテネス機に比べればこの義足は素直で従順という評価は、もはやライガットの想像の埒外だ。組み込んだ石英靭帯で動作を補助する義足といっても、果たしてゴゥレムと比較するようなものなのかという点から、本気なのか冗談なのかも計り知れない。
 ジルグが本当に平気なのかも、無茶をしていないのかも。
 とはいえ彼の復帰に関して、他人であるライガットに否やを唱える資格はない。そもデルフィングを取りに行って帰ってきたら既に決まっていたことだった。
 回収したアテネスのエルテーミス三機のうち最も破損の少ない機体をベースに造り直したのが、以前ジルグが拝領していた赤い機体だった。さらにもう一機組み立てるのはさすがに不可能だったらしいが、その脚部や跳躍補正装置などの技術を解析して取り込んだ新型ゴゥレムの開発は何とか実を結びつつあるという。乗り手を選ぶことは明白だったので開発当初から搭乗士にはナルヴィが想定されていたが、ベクトリアの戦闘でエルテーミスを失ったことにより、先に組み立てられた機体をまずジルグが受け取ることになった。
 ナルヴィが多忙により満足に試験を行えないこともだが、一方のジルグには既にエルテーミスでの実戦経験があること、何より本人が療養生活を早々に切り上げての復帰を強く望んだためだという。
 辛気くさい病室は飽きたから、停戦期間が明けるまであまり時間がないから、開発された新型にも興味があるから、なによりゴゥレムの操縦に足はいらないからと、リハビリを始めたばかりでまだ不慣れな義足もお構いなしに、ジルグはその新型で毎日ライガットの訓練につきあっている。そして涼しい顔で毎日完勝している。
 ライガットにとって腹立たしいのは、ジルグは初日数回の訓練でデルフィングの残り時間の減少ペースを読み切ったらしく、その後は五個のマーカーを活動時間に対して均等割に潰してくるようになったことだ。マーカーの割れる音がもはや残り時間のカウントダウンにもなってしまっている。
 完全に遊ばれているような気がしてならないが、峠での一騎打ちは奇策で一本取ったようなもので、やはり彼我の力量差は歴然としている。接近戦の技術を磨くなら地道に経験を積んでいくしかないのも当然で、以前イーストシミターの指導をしてくれていたサクラが最近は会議に詰めっぱなしである現状、たとえ性格に大いに難ありでもクリシュナ最高峰の搭乗士が指南役なのは恵まれていることになるのだろう。
 なにより、目の前に、これだけ動けるようになりたいという理想であり目標が実在している。
 ペグー山でライガットは、ボルキュスに一騎打ちで完全敗北した。最初のうちはまだ押していた、戦えていた、というのも今となっては怪しい。相手に力量を測られていただけで、底の浅さを見抜かれたからこそ最後は簡単に打ち倒されたのだというのが顛末を聞いたジルグとナルヴィの見立てであり、ライガットもそれを否定する気はない。
 強いのはデルフィングであって、ライガットは弱い。
 ならば自分が強くなるしかないのだ。
 でなければ本当にどうしようもないことを思い知った。
 でなければ、約束も何も守れない。


 あの時、遠く遠く崖の上から、見られている気がした。
 ライガットの肉眼ではマントに包まれたシルエットにしか見えなかった。しかし向こうはゴゥレムだ、プレスガンの射程は遥かに超えていたが、本当にこちらが見えていたかもしれない。
 彼我の距離と曲がりくねった細く険しい山道、そしてバルド率いるゴゥレム一小隊を警戒したのか、しばらくこちらを見ていたボルキュスのゴゥレムは結局、ふいと稜線の向こうに姿を消した。
 急いでこの山から逃げる準備をしながら、ずっと見られている気がした。
 ひしゃげた右足首の痛みで半ば意識が飛びかけているジルグを抱えて、バルドのゴゥレムにすくい上げられたときにも。
 何もないのに喉が締まったように息苦しかった。
 指先が凍るように冷たかった。
 ──あれを殺さなければ、今度こそ殺される。自分が。あるいは。
 そう思った。
 思ってしまった。


 まだ何色にも塗られていない、ジルグのと同じような少し違うような新型が訓練場にやってきたのは、その数分後だった。
 訓練場の隅にある日陰のベンチで先ほどの反省会だったライガットは、こちらに向かってくる重々しいゴゥレムの足音に顔を上げた。
「お、もう一機出来たのか」
 ということは、あれに乗っているのはナルヴィだろうか。
 デルフィングの新装備に新型二機、停戦明けに間に合わせるため城の魔導技術士たちは不眠不休らしい。
 もう後がないのだから、誰もが必死だ。
『デルフィングの訓練は終わったのか。ちょうど良い』
 果たしてゴゥレムの拡声器から響いたのはナルヴィの声だったが、何故か喜色にぎらついていた。
「何が?」
『こいつのテストをしに来た。──私はいきなり襲いかかったりはしない、今から私と勝負しろジルグ!』
 そうして高らかな挑戦と共に、ゴゥレムの指がまっすぐにジルグへと向けられた。
 が、向けられた方はその指先を見て、次にゴゥレムの頭部を見上げて、最後にため息をついた。
『……何だその面倒くさそうな顔は』
「とても面倒くさそうだなあと思ってますよ、隊長殿」
「諦めろ、ありゃ逃げる方が面倒くさいぞ」
「面白がってるね」
「なんか面白そうだし」
 ライガットには他人事なので、にやにや笑いながら隣のジルグに言ってやる。と。
『おまえら最近やけにむかつく』
 ナルヴィからは何故か一緒くたにむかつかれた。
「何だそりゃ」
 面白がっているだけとはいえ一応はナルヴィの味方のはずだったのに、ライガットは心外だとばかりに不満の声を上げる。
『ああもういい。よしジルグ、おまえが勝ったら何か言うこと一つ聞いてやる! これでどうだ!』
 とりあえずナルヴィに引き下がるつもりはないようだ。妙な条件まで繰り出してきた。
 ライガットがちらりとジルグをうかがうと、彼は小さく肩をすくめて。
「ルールは」
 諦めた。
『お互いプレスガン無し、模擬刀のみの接近戦だ、おまえたちがよくやっているあの風船割りゲームで勝敗を決めよう。あと、もし装甲以外を少しでも壊したらその時点で負けだ』
 了承を答える代わりに立ち上がったジルグを、ライガットはひらひら手を振って見送る。本来ならば反省会という名の、天才様による情け容赦ない駄目出し大会だったのだが、これは面白いことになったかもしれない。
「んじゃごゆっくり」
 すると何やら不愉快そうに片眉を上げたジルグが何か言いかけたが、それより早くドスの利いたナルヴィの声が響いた。
『ライガット、おまえは上で見ていろ』
 上って何の上だよ。彼女のそこはかとない迫力に圧されながら、ライガットが怪訝に目を眇める。と。
「あれの上でしょ。特等席だね」
 口の端を怖い笑みの形に歪めたジルグが、視線で訓練場に座すデルフィングを指した。確かにそこからならさぞ見晴らしも良いことだろう。
「……おまえら怖ぇよ」
 これは最近に限ったことではなく、最初からだけれども。


 二人の試合は、開始早々ナルヴィのマーカーが一つ砕けた。
 武器は模造刀一本だけの接近戦なのだから距離を詰めねば双方手が出せないのは当然だが、最初から間合いを支配したのはジルグの方だった。ナルヴィは何とか自分の間合いに奪い返そうとしているが、上手く脱することが出来ていない。
 そのことに焦れて強引に攻めたナルヴィの、二つめが割られる。カウンター気味にジルグのマーカーも一つ道連れにすることが出来たが、生じた隙を突かれてさらにもう一つ取られてしまった。
 ナルヴィには悪いが、この分だとマーカーが全滅するまで時間はさほどかからないだろう。
 訓練場の端に寄せたデルフィングの上で、ライガットはわずかに眉根を寄せてコクピットハッチの中へ滑り込んだ。ゴゥレム二機が暴れるとさすがに風が砂っぽい。
 光が点っても、デルフィングのコクピット内部は薄暗い。間もなく映し出された外の映像は、肉眼とはまた少し違って見えた。
 ライガットの指が画面中央の二機を拡大すると、その足裁きもはっきりと見て取れる。
 ごりごりと関節の石英が鳴る音も聞こえる。ナルヴィの機体の方だろう、おろしたてのゴゥレムの音だ。もちろん引っかかったりしないよう丁寧に研磨されているのだが、関節に強く負荷が掛かると擦れるのは仕方がない。搭乗士の動きの癖もあるので、慣らしで多少すり減ってはじめて機体が馴染んだとも言える、らしい。
 ライガットとデルフィングには無縁そうな話だが、そんな話をしたジルグは、デルフィングの場合はライガットの癖を"覚えている"かもしれないと言った。ライガットの慣れだけとは言い切れない反応速度の変化がある、らしい。
 言われてみればデルフィングは、バランスを崩して転けそうになったら勝手に姿勢を立て直そうとする。さらには崩落する採掘場から勝手に跳び上がり、崖から転落したときは崖下に叩きつけられないよう勝手に踏ん張っていた。そうやって勝手に動くだけの判断能力があるのなら、そういうことも、もしかするとありうるのかもしれない。
 だから体に覚えさせようか、などとジルグが怖い笑顔で言い放ったのは、ライガットも聞かなかったことにしたが。
 ――ふと気づく。
 ナルヴィもそしてライガットも、ジルグを捕まえられないのは場の主導権をジルグに握られているからだ。ジルグの動きに合わせて動いている限り、そこから派生する選択肢はすべてジルグの予測の範囲内に収まってしまう。
 ならば。


 とうとうマーカーが首の残り一つになったナルヴィ機が、つと姿勢を低く沈め、ジルグ機に突き上げる。ジルグは機体を大きく躱すことなく腕の装甲を滑らせるように当ててわずかに突きをそらし、ナルヴィ機の切っ先は首のマーカーを掠めることなく肩の上の空白を貫いた。ジルグから見て右、ナルヴィから見て左。ナルヴィに刀を戻す暇はない。そのまま右手の刀を振り下ろすが、その時には機体を捻ったジルグが左の半身で押すように肉薄していて、振り切ったナルヴィ機の右手を刀の柄頭で打ち落とす。だが打たれた手に刀はない。
「左!」
 ライガットが思わず叫んだ、その時にはジルグは刀の行方をもう見つけていたようだった。
 振り切る前にナルヴィの刀は右手から左手に投げ渡されていた。すかさず左で切り上げる。ジルグは今度こそ大きく機体を引く。ナルヴィ機の背後を抜けて、さらに振り向きざま最後のマーカーを取る。
 その体の入れ替えだけならまるで背中合わせで踊るようだとライガットは一瞬思ったが、そんなことを二人の前で口にしたらたいそう不機嫌になってしまう気がしたので、小さくため息だけを落とした。


「もっと驚かせられるかと思った」
 機体から降りたナルヴィが不服そうにぼやく。
「あれは浅いですよ」
 同じく地面に足を着けたジルグは、素っ気なく言い返した。
「ヤワなマーカーを割るならあれでも充分だ」
 ナルヴィは次に訓練場を見渡して、今いる平らかな砂地ではなく、少し奥に広がる岩山の荒れ地の方を見やった。
「もっと跳ばれるかと思った」
「……」
 ジルグは今度は何も言わず目をそらす。
「あんまり強く跳ぶと、着地の衝撃が足に響くらしい」
「そうなのか」
 なのでライガットが補足してやると、ナルヴィは納得したが、ジルグはほんの少し不満そうな気配を漂わせた。
 ライガットは戦闘訓練だけでなく彼のリハビリに付き添ってもいるので、右足の状態についてもだいたい把握しているが、それを他に知られるのは嫌がっている節がある。はっきり態度に出さないのは、それがガキっぽいと自覚しているからなのだろうが。
「ふむ……それでも負けたのは私だ、何でも一つ聞いてやる。ただし一般常識の範囲内で」
 それは彼女が勝負をふっかけたときに持ち出した条件だったが。
「別に何も」
 心の底から興味なさそうなジルグの言に、ナルヴィは少し苛立ったように眉をひそめた。
「何もないなんてことはないだろう」
「隊長殿こそ、もし俺に勝てたら何を言うつもりだったんですか」
「それは!」
「それは?」
「とりあえず試合に肯かせるための方便で、勝ってから考えればいいと思っていたんだ!」
 そんな開き直って逆ギレされたら、いくら相手があのジルグでもちょっと可哀想だろう。
 ライガットはこっそり苦笑をこぼす。顔に出したりはしていないが、あれはたぶん始末に困っている。と、ジルグがぱっとライガットの方を振り返って、ふっと笑った。嫌な予感がした。
「じゃあライガットが決めてよ」
 当たった。
「おいこら待て、何でそこで俺に飛び火させんだ」
「今、バカにした目で見てただろう?」
「バカになんかしてねーよ呆れただけだ!」
 するとついさっき逆ギレしたはずのナルヴィが、やれやれとため息をついてみせた。
「よしわかった。埒があかないからおまえが決めろライガット。ただし変なこと言ったらただで済むと思うな」
「マジでか。……ったく」
 変な風に巻き込まれてしまった。とりあえずジルグを軽く睨みつけてから、ライガットはがしがし頭を掻いて気を取り直す。そうだ、難しく考えるようなことでもない。だいたい、こういうくだらないことは時間を掛けてしまうと無駄にややこしくなると決まっている。
 ふとオアシスの方から吹いた風が涼しくて気持ちよくて、真っ青な空を見上げた。太陽の光が眩しい。暑さの盛りはまだまだ先だが、今日は空には雲一つなくていつもより少し暑くて、こんな真昼に外で動いていたら少し汗ばむくらいの陽気だ。そういえば持ってきていた水もすっかり生ぬるかった。
 こんな時は。
「ジルグって甘いもん駄目な方?」
「別に」
 この場合は嫌いではない、あるいはどうでもいいか。とはいえ嫌いならきっぱり嫌いと言うだろうから、ここは悪くない返事だとライガットは勝手に判断する。
「んじゃ負けた奴がアイスおごれ。ガキの遊びに賭けるもんなんて、そんなんでいいだろ」
「ふうん」
 ジルグの声は気のない返事のようでいながら、ほんのわずか碧眼を瞠っている。まさかアイスがではないだろうが、何か興味を引いたらしい。
「アイスか、悪くない。今日は暑いしな」
 ナルヴィも乗り気になったようだ。
「だったら良いところを知ってる。どうせデルフィングもまだ休ませねばならないのだろう、私も次の打ち合わせまでまだ時間があるし、今から行ってみるか」
 そしてそんなことを、ジルグではなくライガットを見て言った。
「へ? 俺も?」
「ジルグと二人で行くのは嫌だ。絶対に嫌だ」
 途端に顔をしかめたナルヴィが地を這う声で呻く。本当に嫌そうだった。
「──まあついでだ、おまえの分もおごってやるから一緒に来い」
「おお! 隊長殿の太っ腹!」
 思わずライガットの答える声が躍る。アイスなど田舎のしがない貧乏農民には超が付く贅沢品だ。学生時代以来お目に掛かっていない。
 と、その時。
「おお! なんか良いタイミングで来たっぽいぞ俺ら!」
 同じくらい調子の良い声とともにナイルが、訓練場の高台へと上がってきた。その隣には苦笑いしているロギンもいる。
「いいねえ、おごり!」
「ナイル兄は自腹」
 しかし冷え切った目で振り返ったナルヴィに、ばっさり切り捨てられた。
「ぐっ、この鬼妹め、敵の捕虜になっていた可哀想な兄をいたわる気持ちはないのか……!」
「妹にたかろうとするこのヘボ兄貴め、すぐ解放されたうえに、もう半月も前のことでいつまでも見苦しい!」
 そのまま二人で騒々しく兄妹喧嘩を繰り広げるものだから、そっと離れたロギンがライガットの方へ逃げてきた。
「どーした?」
「いや、ナルヴィが新型を動かすと聞いたのでな、俺たちも休憩に入ったから見に来たんだが……もう終わってしまったようだな」
「ジルグ相手だからなあ」
「そうか。そうだなあ」
「んで何でか、負けた方が勝った方に何かするって賭になっちまって」
「なるほど、それでアイスなのか」
「うん、それでアイス」
 そのまま二人でそんなことを話していると、辟易した顔でジルグも逃げてきた。
「あれどうするの」
 そうして煩いから何とかしろとでも言いたげに、すっかり子供のケンカを繰り広げている兄妹を指差してくる。
 こいつ最近ずっと一緒だからって、何かあったら俺に丸投げしてないか。ライガットは一瞬眉をひそめたが、貼り付けた薄笑いと繕われた言葉ばかりで本当のことは何も言わなかった以前に比べれば多少なりとわかりやすくなったので、まあいいかと思い直す。
 そんなことよりも今はアイスだ。
「ナルヴィー、アイスはー?」
 まるで小さな子供のおねだりだが、今から行こうと言い出したのはあちらなのだから、これくらい別に卑しくも何ともないはずだ。むしろ途中でほったらかしにされているのだから正当な主張のはずだ。
「――わ、わかっているっ」
「あ、おいっ」
 果たして彼女は弾かれたように他愛ない言い合いを一方的に打ち切ると、ナイルを一瞥もせずこちらに駆け寄ってきた。
「すまん。城門前の広場だ。ここからだと少し歩くが、ジルグの足は大丈夫か」
「んー、普通にあちこち歩き回ってるし平気だろ。もし何かあったら俺から先生に言っとく」
 ナルヴィが何故か本人ではなくこちらに訊いてきたので、ライガットは勝手に答えてから、すぐ後ろにいるジルグをちらりと振り返る。
 少し歩くと言われたからか右足の具合を確かめているようだ。なのでまったく聞いていなかったとは思えないが、ちっとも気にした風はない。
 ――何なんだろうな。
 あんな約束をしたから、あんな庇われ方をされたから、手術直後の弱り切った姿を覚えているから、それまでと同じではなくなってしまった。
 ライガットは目を伏せ小さく息を落とす。だがそもそもジルグの方こそどうなのか。
 ジルグが振り返ったことには、気づかなかった。


2.愛で塗り潰した



 初夏の気配が混じり始めた陽射しを見上げて、こうして街を歩くのも久しぶりだったとナルヴィは思い出す。
 多くの住民が避難して人けのない大通りは寂しいが、王都の中心部だからきちんと整地もされていて歩きにくいことはない。誰からともなくジルグの足を気遣った遅めの歩調も長身の男にとっての話で、ナルヴィには程良いペースだった。
 目指すは移動式屋台のアイス屋だ。
 その屋台はナルヴィがまだ子供の頃から王都内の公園を回っている。週に一回程度、孤児院近くの公園にも来ていた。最近は住人の多くが避難してしまったのであちこち回るのはやめて、もっぱら軍関係者や城勤めの人間を相手に城門前の広場で屋台を構えていると聞いたのが数日前のこと。懐かしさから気になっていたところにアイスの話が出たので、つい乗ってしまった。
 そういえばミレニル部隊の結成から短期間に立て続けにいろいろありすぎて、帰ってきてからも本当にいろいろあって、訓練中でも作戦中でもない時間に全員揃って何かしようというのも初めてのことだ。それがアイスの買い食いというのは、停戦期間とはいえ戦争中だというのに、何とも言いがたいところではあるが。
「あいつ変わったなー」
「ジルグか」
 つと隣のナイルが視線をすっと斜め後ろに流して言ったので、半ばぼんやりしていたナルヴィも言わんとすることがすぐにわかった。ロギンも肯く。
「そうだな、何というか……少し普通になった、というのかな」
 ナルヴィがちらりと後ろを振り返ると、ジルグとライガットが近くも遠くもない距離で並んで歩いていた。
 歩く列が何となく三人と二人に分かれているのは、習慣のようなものなのだろう。この三人はトゥル将軍の下にいた頃から三人だったことが多かったし、後ろの二人はジルグの退院後はだいたい一緒にいると聞いていた。ライガットが怪我の責任を感じているのもあるだろうし、ジルグの右足はまだ状態が安定したわけではないので誰かが傍に付いている必要がある。
「で? 結局あいつら何あったの。聞いたんだろ」
「ゴゥレムで殴り合いのケンカ、だそうだ。いつ後続の敵に見つかるかもしれない状況でだぞ」
「バっカだなー」
「本当に、救いがたい大バカ野郎だ。なんとか生きて帰ってこれたから笑い話にもなるけど」
 面白がる響きを隠そうともしていないナイルに答える声が、憮然としたものになるのは致し方ない。先日ライガットから曖昧に誤魔化されていた峠での一部始終を聞き出したときには本気で頭痛がした。その前の戦闘で意識を失っていた自分が人質にされていたというのも業腹だ。
 そんな大バカ野郎の身勝手に巻き込まれて敵地で武器を奪われてそのまま敵に見つかって捕虜になってしまったロギンは、引きつった苦笑だけを滲ませた。
「てか、殴り合ったら仲良くなっちゃって、庇っちゃったのか」
「……誰かに何か聞かれた?」
「まあ、それなりに?」
「仲間を庇ってジルグが怪我したのは本当だと言うと、とても驚かれるな」
 彼らの噂はひっそりと広まっている。腫れ物に触るようにおそるおそる、しかし着実に。それが良いのか悪いのかわからない。
 バルド将軍の一人息子と国王夫妻の親友はどちらも、良くも悪くも有名人だ。仲間殺しとしても。
 その場にいたナルヴィに直接真偽を問うてきた範囲では、とりあえず不可思議な現象が起きた扱いをされていても、あからさまな悪意はないようだったけども。
「……私だって驚いた」
 まさかあのジルグが、ライガットを命懸けで助けるなんて。
「右足だけで良かった方だ、当たり所が悪ければ即死だってありえた」
 あの時。全員乗機を失ったため、ジルグが把握していたバルド将軍の動きと山の地形から最も合流の可能性が高いルートを目指して、ゴゥレムが入り込むには険しい細道を選んで三人で駆け下りた。生身でゴゥレムに対することは無理でも、哨戒に出ている並の歩兵少数が相手ならば、戦えないライガットを守りながらでもジルグとナルヴィで対処可能と判断したからだ。
 実際、途中までは容易に切り抜けられた。
 それでも麓に近づけば山道も当然緩く広くなり、見通しも良くなり、とうとう敵ゴゥレムに出くわした。子供のように小柄な女性兵にいぶり出された先で、一機。さらなる増援が来る前にと三人で打ち合わせて辛うじて無力化に成功したものの、横倒しになった敵ゴゥレムが岩壁に突っ込んだ時の落石にライガットとジルグが巻き込まれ、咄嗟にライガットを庇ったジルグが重傷を負ってしまったのだ。
「ライガットは当然ジルグを見捨てる気がないし、あの後すぐにバルド将軍が見つけてくれなかったら、本当にどうしようもなかった」
「へーえ。ライガットの甘ちゃんは今に始まったことじゃねえけど」
 最初は敵兵にすら情けをかけてしまったようなライガットだ。自分を庇って大怪我した仲間を見捨てられなくても意外ではない。
 だがジルグは、そういう人間ではないと思っていた。
 そう思っていたのはナルヴィだけではないはずだ。助けられたライガット当人も、どうしてとわめいていた。息子の負傷理由を聞いたバルド将軍も、あの表情を隠す眼鏡の奥でそれでも一目でわかるほど唖然とした顔をしていた。
 だが、ナルヴィは見ていた。
 ライガットを庇ってジルグの足が潰れた、あの時。
 あっという間の出来事で、上にいたナルヴィはそれを見ているしか出来なくて、だからなのか二人の表情もつぶさに見えていた。倒れ込んだゴゥレムが崩した岩の、影が二人の上に落ちた瞬間も、いち早く我に返ったジルグが凍りついたライガットを振り返った瞬間も、その手で彼を安全な光の下へ突き飛ばした瞬間も。
 ありえない方向に折れ曲がった自分の右足首を見て、失敗したと自嘲したジルグが捨てて行けと言った顔も。
 泣きそうな酷い顔で首を横に振るライガットに、ジルグが戸惑ったような驚いたような、苦笑しようとして失敗したような、やっぱり酷い顔をしていたのも。
 そういう顔が何なのか、知っている気がした。
 だから。
「前は何を考えているのかわからなくて不気味な奴だと思っていたが、今は頭でっかちのクソガキだと思うことにした」
「あー、いるよなあ、そういう面倒くさいの!」
 万が一にも後ろに聞こえないよう潜めた声でナルヴィが低くぼそりとつぶやくと、ナイルの方はお構いなしの大声で笑い飛ばす。と。
「なーあー? おまえら、もしかして俺らの話してねえ?」
 その馬鹿笑いが気になったのか、後ろから半眼のライガットが低い声で口を挟んできた。
「なんだ、おまえたち自分が面倒くさいバカって自覚あったのか」
 ナルヴィがにやりと笑って言い返すと、ライガットはジルグを、ジルグはライガットを横目で一瞥し、測ったように揃って嫌そうに顔をしかめた。
「俺こんな面倒くさくヒネてねえよ!」
「このバカと同レベル扱いは心外だ」
「おまえら仲良いな!」
 そんな、いっそ可愛らしいほど子供じみた二つの反論も一緒くたにナイルに笑い飛ばされたので、二人とも結局ふてくされた仏頂面で黙り込んでしまった。
 ──本当に、仲の良い。


 ナルヴィが入院中のジルグと二人きりで顔を合わせたことが、一度だけある。
 捕虜交換という実質は敵貴族を含んだ捕虜解放と引き換えにもぎ取った停戦期間に入った直後、ペグー山に残っていた偵察隊からデルフィング回収の可能性が報告されて、ライガットが再び峠へ向かった翌日のことだった。
 そのことを好都合だと、頭のどこかで思っていた。
 峠でデルフィングを失って待機命令が出ていたライガットは、病室に入り浸りジルグの相手をしていた。そんな彼の前では持ち込みにくい話だった。
「ジルグ。入るぞ」
 ノックと声かけだけはして、返事を待たずにナルヴィは軽い板の扉を開いた。訪ねる予告と人払いはしてあるので、病室には他に誰もいないとわかっていた。
 わかっていて、一瞬戸惑った。
 一瞬、広くもない病室で、男ひとりの居場所を見失った。
 あまりにも静かだったので。
 ベッドの上のジルグは眠ってはいなかった。わずかに顔を窓の方へ傾け、外を見ているようだった。入室したナルヴィの存在に気づいていないはずはないが、こちらを一瞥もしなかった。
 デルフィングの件でライガットを呼び出しにここへ寄った一昨日は、この男は顔色こそ優れないものの、益体もないわがままや軽口をなめらかに並べたてては、強く出られないライガットを振り回して遊んでいた。切断手術から日が浅いのに賑やかなことだと呆れたくらいだった。
 けれど今は、身じろぎ一つしない男の気配が、凪いだ水面のように静まり返っていた。
 息を潜めたように、ひどく薄くさえ感じられた。
 ぽつりぽつり点滴が落ちる音すらいやに大きく聞こえる、息の詰まりそうな空気に飲まれる気がして、振り切るように小さく首を振ったナルヴィは、つかつかと足早にベッドサイドに近寄ってからもう一度、今度は返答を期待して呼びかける。
「ジルグ」
「俺は、戦場に出られますか」
 言ってようやくナルヴィを見たジルグは、いつものあの嘘くさい笑みを張りつけてはいなかった。しかし冷め切った無表情だというには、彼の目が初めて見る色をしていた。
「でなければ俺は用無しでしょう」
 早口でそう続けたジルグが、口の端を皮肉げにつり上げる。
 そうだ、一年前に殺人を犯したこの男が、償いを終えたわけでも赦免されたわけでもないのに牢獄の外にいるのは、この国家存続の危機に有用な戦力になると見なされたからだ。戦場か牢獄かで、戦場を選んだ。
 だが今のこれは。
「さすがにその大怪我で、牢に戻されたりしない」
「同じことですよ」
 同じこと。
 ナルヴィは無音でその言葉をなぞり、小さく息をついた。
「義足のことは聞いているな」
「ええ、一応」
 この男のことだからリハビリを始めればすぐに歩けるようになるだろう。内部に石英を用いた義足はゴゥレムを動かすより簡単だと聞く。膝が健在なのも大きい。ナルヴィも周囲も、楽観視はしていないが悲観視もしていない。言動がどうであれジルグは有能な人間だ。
 それでも今、これまで当たり前だったことが当たり前でなくなった。
 重くて軽くて小さくて大きくて、静かな絶望がそこにある。
「ジルグ。おまえは強い。私もよくわかっていたつもりだったが、まだまだ認識が甘かったと峠の戦いで思い知った。正直、あの状況を生きて切り抜けられるなんて思っていなかった」
「それはどうも」
 予想していたとおりの軽い返事だった。
 たとえば他人からの賞賛など、彼にはおそらく無価値に等しい。だから上官であるナルヴィにも平然と嘘をつく。戦果の報告を怠る。叱責も意に介さない。そこからでは、この男は望む対価を得られない。
 それでも何かあるはずだ。ジルグにとって価値あるものが。
 ナルヴィにはそれが何なのかわからないが、きっとライガットにはわかったのだ。だから。
「だから、おまえは強いままでいるべきだ」
 今のナルヴィにわかるのは、この男は自分の弱さと折り合いもつけられず、持てあまして途方に暮れているガキということくらいだ。
 絶望とはひどくありふれたものだ。漠然と信頼していた期待していた未来は、不意に、あっさりと引きちぎられる。
 ナルヴィの内側にも熱が灼き付いている。敬愛するトゥル将軍を、養父を喪った悲しみとか、殺した敵への憎しみとか。どうにもならない後悔とか。どうしようもない己への嫌悪とか。
 トゥル将軍の側を離れるべきではなかったという後悔すら甘ったるいだけの毒だった。ライガットやジルグのような全滅を覆すだけの力を、自分は持っていない。意味がない。兄にも庇われた。腹立たしく、それ以上に情けなかった。兄が正しかったことに。
 弱いとは、無力とは、そういうことなのだ。
 望む資格すら得られない。
「現在シギュン様主導で、軽量型ゴゥレムが開発中だ。機動力重視の設計で、エルテーミスだったか、おまえが使っていたアテネスの機体に比べると少しヤワで無茶がしにくくなる。運動性もいくぶん落ちていた。──シギュン様から、このままでいいか訊かれている。返答期限は今日の昼だ」
 見上げたジルグの目が、訝しげに眇められる。
 切断した手足というのは傷口の痛み以上に、喪失したはずの部分が酷い痛みを訴えることがあるという。その幻肢痛に対して鎮痛剤は多くの場合気休めにしかならず、人によっては切断から何年も痛みの発作に苛まれるという。
 ジルグも既に何度か激痛に苦しんだとの報告を受けている。そのつらさは本人が一番わかっているはずだ。
 それほど痛む足を引きずってでも、戦場を望むのなら。
 それだけのものがあるなら。
「戦場に出たいなら、その足でも戦えることを示せ。私を何だと思っている」
「……ミレニル部隊の隊長殿、でしたね」
「そしておまえの直属の上官だ。私はおまえをまだ使えると思っているが、おまえは諦めるつもりか?」
 続けたナルヴィのこの言葉にジルグが驚いたように目を瞠ったのは一瞬だけで、すぐ鋭利に細められた。
「あのアテネスのゴゥレム、とことんイカレてるけど、惜しい」
「奇遇だな、私も同感だ」
 思わず口の端が笑みの形に歪む。
 確かに、あの強さは惜しい。
「では十日後までにゴゥレムに乗れる程度には体調を整えろ。──新型、先にくれてやる」
 ナルヴィを見つめ返すのは力ある眼差しだった。その奥でぎらついているのは、一昨日までは見えなかった熱だ。
 こんな目をする男に、欲しいものが何もないなんて、あるはずがない。


 ならばジルグが何を望んでいるのか考えてみても、やはりナルヴィにはそれが何なのかわからないが、それもライガットならわかるのかもしれない。
 そう思って、ふと、それそのものが理由になり得ることに気づいた。


 ライガットを庇ってジルグが負傷した、あの時。
 あっという間の出来事で、上にいたナルヴィはそれを見ているしか出来なくて、だからなのか二人の表情もつぶさに見えていた。倒れ込んだゴゥレムが崩した岩の、影が二人の上に落ちた瞬間も、いち早く我に返ったジルグが凍りついたライガットを振り返った瞬間も、その手で彼を安全な光の下へ突き飛ばした瞬間も。
 ありえない方向に折れ曲がった自分の右足首を見て、失敗したと自嘲したジルグが捨てて行けと言った顔も。
 泣きそうな酷い顔で首を横に振るライガットに、ジルグが戸惑ったような驚いたような、笑おうとして失敗したような、ぐちゃぐちゃの酷い顔をしていたのも。
 それとよく似た顔を知っていた。
 ひとりはぐれて迷子になっていた子供が、先生に見つけてもらったときの顔とそっくりだった。
 だからこの時、ナルヴィは何も言えなくなったのだ。


 がたごとと、昔と変わらない、のどかな音を立てて機械が冷たいアイスを作り出す。
「ライガットとついでにジルグのも。ロギンの。ナイル兄はこっち」
 まとめて支払いを済ませたナルヴィが順繰りに配るアイスのカップを受け取って、受け取ったままナイルが固まった。
「……あ、あれ? ナルヴィ、さん?」
「何」
 アイスの上に数切れ乗っかっている、頼んでいないはずの果物のシロップ漬け。貴族向けの菓子に加工した果物の切れっ端をシロップ漬けにしているらしく生の果物にしては高くないが、それでもこんな屋台の売り物ではアイス本体より高い。
「あの、これ……」
「アイス」
 見たまんまでしょうとばかりにナルヴィは言い返す。
 安物だけどちょっと贅沢なアイス。それも子供の頃にはやりたくても出来なかった果物盛りのアイスだ。あと二つ三つ種類があればもっと様になっただろうが、この戦時下では致し方ない。
「え、だって……」
「だから何」
 自分から物言いたげに声をかけておきながら、ナイルはうんうん唸りながら首を右に左にひねるだけでなかなか続きを言おうとしない。しかも。
「いや……その……俺、別に見捨てられたとか思ってねえからな?」
 さんざん悩んで、出てきた言葉がこれなのだ。
「はあ? わけわからないこと言わないで。敵に負けて捕虜になったのはナイル兄が弱いからでしょ」
「じゃなくてだな、そう、自腹っておまえ言ったじゃん」
「うん。おごってなんかやらないけど、おまけはしてあげる」
 言うと、ナイルが面食らったような顔で一瞬呆けたが。
「それ違うの?」
「全然違う」
 ナルヴィも呆れたため息まじりに言い返しながら、本当はわかっていた。
 ボルキュスの部隊から逃げているときは考えないようにしていた。
 頭のどこかで、きっと駄目だと思っていた。
 半分くらい諦めていた。
 だがもう半分は、何だったのか。
 養父の戦死を聞かされて、捕虜交換で生きて帰ってくる兄を見て、それが何だったのか、少しだけわかった。
 わかってしまった。


3.傷跡に口づけた



 目の前に差し出された、厚手の陶器に盛られた真っ白なアイスは、陽射しを浴びて氷混じりの表面がうっすら溶けかけているのか、きらきらしていた。
 受け取って小さなスプーンですくい上げると、まだ固まっておらず、さっくり軽い。そのまま一口含むと、舌の上でふわりと溶けていった。
「……冷たい。甘い」
「おまえなー」
 ジルグの端的に過ぎる感想に隣のライガットが失笑した。
「そこは美味いかどうかだろ、普通」
「まあ、悪くはないんじゃない」
 アイスクリームと細かな氷の粒と、ほのかな酸味はヨーグルトか。さっぱりした甘味は何かの果肉をすり潰して混ぜているようだが、色がなく小さすぎて何の果肉かわからない。
「……こんなの初めて食べた」
「え、そうなの?」
「そういえば俺も、こういう感じのアイスは街でしか見たことがないな」
 同じ貴族階級出身のロギンの言葉に、ジルグも胸中で納得する。貴族の食事会で見かけるアイスといえば、こんな半ば氷菓子の代物ではなく、もっと甘ったるくて濃厚なアイスクリームだ。それがつまり安物と高級品の違いになるのだろう。
「そーかそーか。めちゃくちゃボンボン育ちってことか。ジルグおまえはもっと遊べ! 学生時代とか何してやがった!」
「それなりに遊んでたけど」
「本当かぁ?」
 と、疑りの声を上げるライガットの横にすべり込んできたナイルが、ぴっと自分のスプーンの先をジルグへ突きつけた。
「遊びは遊びでも、おまえのは女遊びだろう! 悪名が轟いていたぞこの女っ誑し!」
「わざわざ誑し込まなくても女の方から勝手に寄ってくるんだよ」
「てめっ! そんなうらやまけしからん言い訳で可愛い女の子を次から次へと取っ替え引っ替えよりどりみどりがまさか許されるとでも思っているのかぁっ!」
 いちいち大仰なナイルの演説が人けのない公園に響き渡る。周囲には昔なじみらしい屋台の店主以外に誰もいないからか、ナルヴィは兄の醜態に冷め切った一瞥をくれただけで黙々とアイスを口に運んでいた。
「一応、二股はしなかったけど」
「そういう! 問題じゃ! ないだろぉ!」
「そう言われても。……どうも長続きしなくて」
 ジルグは小さく肩をすくめて素っ気なく返す。今となっては誰一人として名前どころか顔もろくに思い出せない。たぶんこのアイスの方が記憶に残るだろう。しょせんその程度の女たちだったということだ。
「おまえ悪い男だな!」
 しかし呆れ果てたようなライガットの言は何だか気にくわなかった。一瞬、むっと眉根が寄る。
「そっちこそ王妃様とのご関係は」
「そーだそーだ!」
「ぐっ……」
 途端にナイルの矛先が移ったライガットは小さく呻いたかと思うと、すぐに爆発した。
「だぁあっ!! 友達だ友達! もうしつこいぞシギュンはホズルの嫁さんだろうが! つーか、俺とゼスが昔どれっだけ苦労してホズルの恋路を応援してやったと思ってんだ!」
「苦労、したんだ」
 どこか呆れた響きでナルヴィが苦笑する。
「……おう。だってさー、なんか四人でつるむのが当たり前すぎてさー、俺とゼスが上手いこと抜け出さねえと、二人きりになろうともしねえの。ホズルの奴。ほっといたら本当にどうにもならなかったんじゃねえの。あれは見てらんねえって絶対」
「それで自分の恋は諦めて他人の応援に回ったわけだ」
「だーかーらー。俺はだいじな友達にはしあわせになってほしーなーって思ったんですー」
 ふてくされて子供のように拗ねた顔でライガットは言い捨てた。
 だからジルグも、否定しないんだとは言い返さなかった。
 度し難いバカだと、そう思った。


 あの時。ひしゃげた自分の右足首がありえない方向に折れ曲がって、脳の奥までつんざいた激痛に意識も吹っ飛びかけたが、それをぎりぎり繋ぎ止めたのは真っ青な顔でジルグの名前を呼んだライガットの声だった。
 だからジルグは、置いて行けと彼に言った。救援はもうすぐ近くまで来ているはずだった。この騒ぎで他にも敵が集まってくる可能性もあったが、味方に気づいてもらえる可能性もあった。片足が折れた自分はもう動けないが、合流さえ出来れば少数の敵ならば突破できる。こいつは生き残る。きっと。
 それでいい。それだけでいい。そう思った。


 ちびちびすくっていたアイスが、とうとうなくなった。
 空っぽの器を座っていたベンチの隅に置くと、スプーンが小さく跳ねて、からんと音が鳴った。
 先に食べ終わっていた四人は公園の向かいの通りで、屋台の店主を囲んで何事か話している。
 ベンチに深く腰掛けたまま、ジルグは右足をまっすぐ伸ばした。
 失った右足の機能は義足で補われた。大急ぎで造られた割にはずいぶん上等な義足で、こうして軍服のブーツを履いていれば見た目にも義足だとはわからない。だが重さが違うし、感覚も反応も違う。生身と同じではない。大部分は軽量な木製だが補助に石英靭帯も組み込まれているため、使い方によっては人間以上の脚力も出せるらしい。生身とは違う。
 失ったものの代わり。
 目を伏せると、空っぽの器の底にうっすら水滴がたまっているのが見えた。
「足、痛むのか?」
 変な顔してるぞ。いつの間に戻ってきたのかジルグを覗き込んだライガットの、視線には気遣わしげな色が浮かんでいた。
「別に。まだ少し慣れていないだけだ」
 浮かせていた右足を地面に着ける。
 やせ我慢でも何でもなく、痛みらしい痛みはなかった。それに入院中は酷かったものの、この数日は幻肢痛も起きていない。痛みはストレスも影響するとは医師の言だったが、自分で思っていた以上にあの病室は居心地が悪かったらしい。あるいは。
 もう一つ脳裏に浮かんだ仮説を、ジルグはすぐにかき消した。その代わりに唇に冷笑を刷いて。
「それにしても、俺はずいぶんと吹っ掛けられたわけだね」
「何が」
 訝しげに目を眇めながら、ライガットがジルグの隣に腰を下ろす。
「ガキの遊びに賭けるもの」
 それこそ、たかがガキのケンカに人生ひとつ賭けたのだ。アイスひとつおごるだけとは大違いにも程がある。
「何言ってんだバーカ、先に吹っ掛けてきたのはおまえだろ」
「どこまで本気なわけ」
「んー? ……あの場の勢いも少しはあったかもしんねえけど、俺は本気だぜ?」
「"本当の望み"?」
「嘘を言ったつもりはねえよ。俺は本当にそう思ったんだ」
「変な奴」
 他人のことに、本気だなどと。
「おまえもおんなじだろ。俺なんか庇うなよ。それでもし死んだら、」
 つと言いさしたライガットが、ジルグから視線を外した。
「死んでたら、何」
「だから……おまえが将軍になれなくなっちまうじゃん」
 さも当たり前のように、しかしジルグの知る期待とは何かが違う響きで、ライガットは仮定の未来を確定しているかのように語る。
「生きてたって、どうにもならないこともある」
「おまえがそんな殊勝なこと言うたまかよ。何でも簡単にやってのけそうな天才のくせに」
 ああ、峠でもこんな話をした気がする。
 そう思いかけてジルグはふと、あの時とは逆だと気づいた。
 逆だ。何もかも。
「そんな天才の俺でも、出来ないこともあるんだよ」
「将軍になるより難しい?」
「かもね」
 この男には、きっと簡単に出来てしまうことなのだろうけど。
「何だよそれ」
「さあね」
 先ほどの酷い話とやらのせいだろう、まさか女関係とは思えないしなどとぶつぶつ言っているライガットを、ジルグは鼻先で笑う。
 思いつきもしないのだ。誰だって。彼だって。
 けれども。
「ま、誰にだってどうしようもないことの一つや二つあるか」
 ふっと静まり返った微笑が、こぼれたつぶやきが、いやに薄暗く聞こえた。
「……おまえになら簡単に出来るかもしれないよ」
 もしバカ正直に言ってしまったら、何と言われるだろうか。
 想像できなかった。肯定の形も否定の形も。自分が肯定されたいのか否定されたいのかもわからなかった。
 それでも言えばこの男は何かを言うのだ。ジルグには想像もつかない何かを。
「ばーか。おまえでも無理なことが、能なしの俺なんかに出来るわけねえだろ」
 こちらを見ない、初夏の空を向いたライガットの目が何を見ているのか、ジルグにはわからなかった。
 彼の横顔に滲んだひどく曖昧な、微笑みのような、空っぽのような、よくわからないものが嫌だった。
 彼が言葉にした望みの、何が本当なのかもわからないのに。
「だいたい、何でアレがおまえの勝ちなんだ」
 ジルグがこの国の将軍になったら。そこにライガットの望む何があるというのだろう。この国を治める親友とその妃が、戦争で命を脅かされることのない未来とでも言うつもりか。
 ざらりとした苛立ちを奥歯で噛んで、救えないバカだと思った。あの時と同じくらいに。
「はぁ? 今さら何言ってんだよ。おまえだって先約って言ってたろ。大人しく負けを認めろこのクソガキ」
 そんで約束のために死ぬ気で努力しろ。
 ようやっと振り返ったライガットがまるで子供のように意地悪く笑ったので、ジルグはこれ見よがしにため息をついてみせた。
「じゃ、そういうことにしておいてやろう」
 あれはケンカの勝ち負けとは全然違うところで負けたのだ。たぶん。バカさ加減とか、そういう気持ちで。だけどそれを口にする方がもっとバカバカしい気がして、だったら適当に譲った方がまだマシだと思えた。
 そう。そういうことにしておけばいい。


 あの時。ひしゃげた自分の右足首がありえない方向に折れ曲がって、脳の奥までつんざいた激痛に意識も吹っ飛びかけたが、それをぎりぎり繋ぎ止めたのは真っ青な顔でジルグの名前を呼んだライガットの声だった。
 だからジルグは、置いて行けと彼に言った。救援はもうすぐ近くまで来ているはずだった。この騒ぎで他にも敵が集まってくる可能性もあったが、味方に気づいてもらえる可能性もあった。片足が折れた自分はもう動けないが、合流さえ出来れば少数の敵ならば突破できる。こいつは生き残る。きっと。
 それでいい。それだけでいい。そう思った。
 なのに。
 嫌だ。頑是ない子供のようなその言葉は、それでも血を吐くように重たかった。しがみつくように強く抱きしめてくる彼の腕に、バカだなと思った。彼のことではなく、自分のことを。
 ――あの時、ひとりで勝手にすくわれた気になってしまったのだ。


 でもそれをこの男に言うのは、ひどく癪な気がした。
 度し難いバカだと、そう思った。
 自分に出来ないことを他の誰かに託すのは、結局は自分の、自己満足のためなのに。


 訓練場に戻ってすぐ、少し太陽が傾き始めた空を見上げてナルヴィがため息をついた。
「そろそろ時間だな。新型を戻さないと」
 それからぼんやりした独り言とははっきり区切られた明瞭さで、こちらを振り向くことなく彼女の言葉が続けられる。
「ライガット。ジルグ。今日の夕方からの会議に、おまえたち二人も呼ばれることになる。そのつもりでいろ」
 その言葉にライガットが顔を強張らせた。
「……決まったんだな」
 この停戦期間が終わった後の作戦が。
「今ここでは何も言えないが、そんなところだ」
「わかった」
 肯いたライガットのひどく固い声も表情も、恐怖とは似て非なる色だった。
 デルフィングのもとに向かう彼の背中を黙って見送って、ジルグはナルヴィを振り返る。
「ライガットはともかく、俺まで行っていいの」
「ああ、発言権はないが入室の許可はいただいている。せっかくだから聞くだけ聞いておけ」
 どうせ大人しく寝ている気なんてないだろうと、彼女は見透かしたように微笑んだ。
 とはいえ。
「礼を言うべきなのかな」
 この不慣れな右足を押しての戦線復帰はジルグのエゴだが、それを受けるナルヴィにとってはどうだろうか。養父を奪われたばかりの彼女にとって。
 すっと目を伏せるように細めた、ナルヴィはライガットの背中を横目で見やった。
「そうだな、私はおまえたちを復讐に利用しようとしているのかもしれない。だが私は部下に、死んでこいと命じる気はない」
 彼女のエゴは、少なくとも愛国心とやらよりは理解できるものだ。
「だから、勝手に死ぬなよ」
 女は怖い。ライガットを見つめる彼女の横顔に、そう思った。


 ──停戦協定が終わるまで、あと七日。


coda:星に届かない場所



 夜明け前。


 生きて、帰ってきた。
 真夜中にもかかわらず城に詰めていた大勢の人が出てきて、次々と発光石英が灯されていった大広場はあっという間にバカみたいに明るくなった。
 その片隅で、ライガットは立ち尽くしていた。
 どうしてジルグは自分を庇ったのだろう。
 緊急手術のため病院に運ばれるジルグを見送って、あふれるようにこぼれ出たライガットの「どうして」を拾ったのはおそらく、臣下を押しのけ駆け寄ってくるなり本物だと確かめるようにライガットの腕を捕まえた、ホズルだけだった。
 すまない。苦く歪んだ顔で、ホズルが言った。
 どうしてホズルが自分に謝るのだろう。
 悪いのは俺だろ。ライガットがうっすら自嘲すると、ホズルはもう一度、すまないと謝罪を繰り返した。手を離さないまま。
 それから。
 生きて帰ってきてくれてありがとうなんて、まるで感謝のような言葉を吐き出した。


 生きて、帰ってきた。
 消毒液のにおいが色濃く漂う病室で、ライガットは窓の外をぼんやりと見上げた。
 ジルグの死んでしまった右足は切り落とされた。
 ナイルとロギンは捕虜になっていることがわかった。
 ホズルが進めている一時停戦の交渉には、捕虜交換も含まれているらしい。
 ――救えない。
 この二日あまり、揺れるゴゥレムの上でジルグを繋ぎ止めながら、繰り返し数えていた。
 親不孝。仲間殺し。命令違反。
 ただ空を見上げながら、星を数えるように数えていた。
 そして今も。
 と、ほんのかすかな衣擦れの音が聞こえて、ライガットはベッドへと視線を戻す。
「ジルグ?」
 うっすら開いた碧の目に、意識が戻ったのかと思わず腰を浮かしたが、夢うつつなのか熱で浮かされているのか、そこに明確な意思の光はないようだった。
 麻酔が抜けても、重傷での長距離移動と切断手術で体力は限界のはずだ。医者からは意識が戻っても数日は起き上がることも出来ないだろうと言われている。今だって熱はまだ下がりきっていない。だが峠は越した。
「もう大丈夫だ。生きて、帰ってこれたんだ」
 移動中は目を覚ますたびに酷い痛みを噛みしめていた彼が少しでも落ち着けるように、ゆっくりと言い聞かせる。
 茫漠としたジルグの視線はゆらゆらと部屋の中をひとしきり彷徨っていたが、ささやいた声に引き寄せられたのかライガットでひたりと止まった。
 ひどく重たげに右手が持ち上がる。指先が伸ばされる。
 呼ばれている、と思った。
 だから力尽きて落ちかけたその手を、ライガットはとっさにすくうように拾い上げた。
「あんまり動くなよ。点滴の針が抜けたら面倒だから」
 触れたジルグの手は熱かった。熱があるから当然だ。
 その指が、やんわりと握られる。力なく。
「おいて、いかないで」
 ああ怖い夢を見ているんだ。ライガットはそう思うことにした。そうでもなければ、この男が自分になど縋るはずがない。
 思い出したのは、バルドから聞かされた昔話だった。
 あの時ジルグが父親へ言いたかった言えなかった言葉なのかもしれない。
 それはいつかライガットが諦めて土に埋めた、言いたかった言えなかった言葉とそっくりだった。
「いかねえよ」
 だからきっと、言われたかった言葉も同じなのだと思った。
 あの日ライガットが今際の際にすくい上げた父の手は、もうほとんど熱を失って、枯れたように乾いていたけれど。
「いつかきっと、何とかなるさ」
 そっと包み込むようにあたたかな子供の手を握り返して、ライガットは祈るようにつぶやいた。


 だって、ふたりともまだ生きている。







didn't know; but it was love







5月始めにブレブレ原作読んでハマって6月から書き始めてるのに書いてるうちに話の落としどころを見失って煮え切らないまま時間ばかりが過ぎていくので、発破かけるため8月に出来てた分だけpixivで先に公開して連載モドキしてた代物。結局半年かかった。

そんなわけで、度し難いバカばっかの話。

生存ifってこういうもんだっけ?と自問自答。半年かかったのは断ち切られた未来の仮定もあるけど、あの世界の衣食住文化風習気候季節がさっぱりわからなさすぎて、没った分も含めて細かい描写でいちいち躓いてましたん。金属食器はありえないが陶器はありでいいんだよね?とか。
アイスクリームもだいぶ悩んだ。ホズルの食事で普通にグラスに氷が入っていたので氷そのものが嗜好品になるほど貴重ではない、それなりの保冷手段があってもいいだろうと判断した。
屋台のアイスクリームはだから今の日本で売ってるアイスクリームとはだいぶ違う物を想定してます貴族のアイスが我らがアイスに近いですよ氷混じりといっても爽じゃないよ全然違うよ。氷の粗いソフトクリームの方がたぶん近いよ。ごりごりしてる機械も保冷と混ぜ混ぜだよ。

このifルートの人柱作戦だと、体調が万全じゃないジルグは柱待機組には入れてもらえないので、ナルヴィと一緒に王城防衛組で狙撃班で、ボルキュスの目に留まらないように大人しく戦いながら新型の調整やり込んでその時を待ち、作戦発動時には開門と同時に単機でふもとへ駆け下りてくるんだろう、とか考えてみる。