「あっぢー……」
潰れたカエルのようにへばって、強い陽射しを雲一つない空を、そしてさほど堪えた様子のない彼を、彼女は恨めしそうに睨んだ。
「おまえ……平気なのかよ……?」
力ない声をかけられた何がとセルジュは振り向き、キッドの様子に小さく苦笑をこぼすと。
「一応、地元だからかな。慣れはあると思うよ」
それでも今日はかなり暑い方だと、トレードマークになっているバンダナをほどいた。外気にさらされた紫紺の髪が風にくすぐられる。
「あいにくとオレ様は北の出だかんな……くっそぉ……」
「なら、わざわざいっちばん暑い夏になんか来なきゃいいのに」
大陸よりもこの諸島が暑いことなんて、子供でも知っていることだ。
「そしたら、会えなかったろーけどな」
すかさず言い返されたその言葉に、セルジュはまた、笑った。
「そうだった」
吹きつけてくる風も、夏の熱をたっぷりと帯びていて、あまり心地よいとは思えない。
「なぁ、セルジュ」
セルジュがまた振り向いたのを気配で感じながら、真横を向いたまま、キッドは思いつきを声に乗せる。
「全部にケリ、ついたらさ。ゼナンの方、行ってみねぇ?」
一緒に。
「ゼナンって……大陸に?」
いきなりの話に、セルジュが驚いて問い返す。
「ああ」
そのまま始まってしまった沈黙に。振り返らないまま、目だけで彼をそっとうかがってみる。
と、目があった。そして。
「それもいいね」
笑顔でそう答えたセルジュに、思わずキッドも笑みがこぼれた。
「そういえばさ、僕の世界の方のキッドって、やっぱり大陸にいるのかな」
あんな話をしたからか、ふとセルジュがささやかに疑問をこぼした。
二つの世界。もう一人の自分。想像しただけで、キッドの眉間に皺が寄る。
「…………いねえ」
「は?」
「いねえよ。うん、そんなヤツはいねえ」
「なんでだよ」
唖然としてるセルジュにもう一度言い聞かせるように繰り返して、キッドは不敵な笑みを浮かべた。
ゼナンでは感じることのない、熱い風。このエルニドの風。
不思議と、これでもいいやと思えた。
「なんとなく、だよ」
もう一人の自分なんて、知ったことか。
この夏の記憶は、自分のもの。自分だけのもの。
「ンなコトより、忘れんなよ。約束、したからな」