「何かを呼ぶ名前は、意味があると思っている」
ようやく形になって声になったのは、そんな言葉だった。
本当は激情のまま即座に怒鳴ってしまいたかったが、結局は思わず低くなっていた声も拗ねたようになっただけかもしれない。
ようやく見つけた言葉すら、ひどく馬鹿げているような気もする。
それでも、ただ当たり散らすだけなどということが出来るはずもなく。
ゆっくりと一つ、瞬きをして。
――だから、嫌いだ。
うっすらとだが確かに見て取れる、ソルが浮かべた怪訝な色に、カイは胸中に苛立しく吐き捨てた。
The NAME of The GAME
「いったい何が言いてぇんだ?」
急に押し黙ったかと思えば、唐突なことを言い出すのだ。
怒らせた肩や、無理に抑え込んでいるかのように揺れた声、あからさまに逆立てられた柳眉で、カイがいつになく腹を立てているのは理解出来たが。
問題は原因だろう。勝っても負けてもカイが怒り出すのはいつものことだが、そこに今回は何かが火に油となったらしい。だが、それが何なのかソルには皆目見当もつかず。
子供の相手は忍耐を要求される。
思わず辟易とため息をつくと、さらに神経を逆撫でしたようだった。
「だから……!!」
ひどくもどかしげに、カイが詰め寄る。
「おまえが、そんなことを言うのか。そんな風に、私は思われているのか! これでは、まるで私は道化か何かじゃないか!!」
「だから何がだ」
「さっき、おまえが言っただろう……!!」
それこそ今にも噛みつきそうな剣幕で。
仕方なしにソルは己の記憶を手繰る。数分前の。とはいえ、ソルが口にした言葉など高が知れているのだ、今回に限ってカイがわめくような何かなど――
「……ヘヴィだぜ」
一つしか、思い当たらなかった。
そんな言い回しにここまで過敏に反応するものなのか、この坊やは。
そう思うと笑いがこみ上げてきた。
「んなもん、いちいち喚くようなことか?」
と、声に混じった笑いを嗅ぎつけたカイの、眉間に刻まれた皺が数本増える。
「違う!! 人の気も知らないで……それをおまえに勘違いされたままなど、冗談ではない」
カイが苛立ち紛れに振った、封雷剣の刀身がひゅっと風を切る音を立てた。
「一人の人間を構成する要素を、ばらばらに切り離して考えることは馬鹿げていると、それはわかっている。だが」
激していたカイの声が、急速に冷えていく。
「私が聖騎士だったことは関係がない。私は本気のおまえと闘いたいのであって、元聖騎士としてギアを狩りたいわけではない」
ふいとソルから目を外し、カイは視線と落としたまま数歩距離を置いた。それまでの勢いは一気に霧散し、噛みしめるように続きを口にする。
――何かを呼ぶ名前は、意味があると思っている。
「私が望んでいるのは、ソル、おまえとの決着だ」
それは理屈では、ないのだと。
下らない意地とも言えるのかもしれない。
だから、ソルがいなくなった後で、こうして一人、声に出して言うのだ。
「私だけが、おまえの望み通りになってやる道理などないよ。……そうさ、おまえの望みなんて、叶えてやるものか。おまえをギアとして、殺してなどやるものか」
だから私は、ソルという存在を肯定し続ける。たとえ、おまえ自身が否定するとしても。
きっとおまえは、私がそんなことを考えているなんて知りもしないだろうけど。
お題no.17「君は誰」。名前。呼び名。二つ名。偽名。
個人の定義。たった一人の特定。名前が指し示す両者の側面。最も大切なこと。本質。
去年の六月頃に日記でちろっと書いたスケッチを加筆修正。
当時は殴り書きそのまま載せていた覚えがあります。しばらく前にスケッチ発掘した時点で、書きかけで止まっている半端な手直し入っていましたし。
そもそもこれを書いたきっかけが、しょうもない私の意地みたいなものでした。子供じみた八つ当たりみたいな。だから単純に、ソルに対してこういう内容で地団駄踏みそうな感じで不満ぶちまけるカイを書くのが目的だっただけ(苦笑) ソルの問題発言がどんなものだったかはお察しください。
「the name of the game」はタイトル決まらなくてnameで辞書引いたら見つけた熟語です。
何だかいろいろ吹っ切って割り切っているのでGGXX以降で。いや、カイが変なこと悟ってるのでもっとずっと後になるんでしょうか。悟ってる不穏な内容は、私的に二人の関係の行き着く先です。ソル側としては[cross]で既にああなんで。でもカイの存命中に物語が終わらないとしたら虚しい。
何はともあれ、オフィシャルの物語がいっこうに進まないので発掘ついでに公開します。
カイには是非とも第三勢力の表ボスになっていただきたい。(裏ボスはジョニー)