始まりも終わりも、あの場所にあった。
三人一緒だったのは、あの道が最後だった。
あの日を境に、何かが遠くなりすぎた。
二度目の別れは、一度目とは何かが違っていたのだ。
それから、三人の道が重なることはなかった。
気がついたときには、もう。
たくさんのことが変わってしまっていた。
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あの頃のように、仕方ないなと笑って即決できなかった。
苦いため息が長く尾を引く。
「おまえのところにあったのか」
ふと聞こえたバリルの言に、ビッツも壁に掛かったそれに目を向けた。あの絵をロナから譲り受けたのは、ずいぶん前のことだ。
「ああ」
そういえば。
「ファロース山に行く少し前、だったな。あれは」
あの山の頂上で、あの遺跡を見つけた日。あの日を境に、気がつけば、ばらばらになってしまった。
バリルは王立天文台へ奉職し、ロナは王都の貴族ルエイン家へ嫁ぎ、ビッツは各地を旅した末にラシュアンに落ち着いた。
それっきり、三人が揃うことは一度もなかった。
これからも、もう、ありえなくなってしまった。
「今のおまえには家族がいるんだしな。あの頃と違う。私一人でも――」
「泊まっていけ、このボロ雑巾」
素っ気なくも辛辣なこの一言に、さえぎられたバリルは苦い顔をする。が。
「では、お言葉に甘えさせてもらうよ…」
相変わらずリッドをあやしながら、力なく笑った。
水をかぶって着替えて、身なりだけはまともになったが、それでも、疲労が濃すぎるのだ。
「こっちだって寝覚めが悪くなる」
――半年前。微笑み言われた、言葉があった。
その真意をはかりかねるように目を眇めるバリルをよそに、ビッツはそのまま黙り込んでしまった。
行きたい思いがある。けれど、とどめる思いもある。
「……頂上にあった遺跡な、あれは伝説の"光の橋"だ」
いきなり喋りだしたバリルに、ビッツの意識が引き戻された。
「"光の橋"だと?」
「ああ。間違いないだろう。今も動いてくれるかは、わからんがな」
ただ、それを確かめに行きたいだけなんだと、言った。
「どうして天文台を出た?」
もう一度、訊いた。
何かが解せなかった。何かが違っていた。
「バリル」
口ごもる彼に強い語調で重ねると、少し困惑げに苦笑して。
「王都の教会に異端認定を受けた」
当の本人は簡単に言うが、その内容は決して軽いものではない。セイファート教はこのインフェリアの国教だ。ある意味では聖地たるファロース教会をも凌ぐ力さえ持っている王都の教会に、異端の烙印を押されるなど。
「終わりだよ。命までは取られなかったが、王の勅命なんていうおまけつきで、研究は禁忌として封印。……いられんさ」
バリルがそうつぶやいた、そのとき。
「……そうか」
夢と共に堕ちる。
――ふと、そんな気がした。